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番外。キアン視点。もう1つの『最悪』3
しおりを挟む貴族の親殺し、爵位簒奪は発覚すれば罪に問われる。ある程度、どこの国でもそうだ。
例外としては親が悪逆非道、犯罪に手を染めているなどと言った、やむを得ぬ場合くらいなもの。
ネイサンの家庭環境は、それなりに良くはないという程度。あの両親も悪逆非道とまでは言えぬであろう。
この男なれば、親殺しも上手く隠しそうではあるが・・・ネイサンの方は、兄が手を汚すことを善しとはしまい。だから、ああなる可能性が高いということなのだろう。
「・・・ネイトから、なにか聞いたんですか?」
探るような焦げ茶の瞳。
「いや? 俺はなにも知らんが・・・」
ただ、視えただけだ。そして――――
「ネイサンも、両親との縁が薄い。そして、女難の相があるからな」
「女難?」
「ああ、お前の貌にも出ているぞ」
「・・・占いとか、僕はそういうのは信じていないので」
「別に信じずともいい。ただ、占いというのは所謂統計学という側面も持っているからな。数百から、数千年にもなる人間の統計。俺が読むのは顔相だが、そこそこ当たるぞ? 例えば・・・お前、あまり他人を信用せぬ性質であろう。信じられるのは、極少数の心許せる者のみ。そういう貌をしている」
「……学問としての占い、ですか」
と、押し黙るセディック。
どうやら思うところがあるようだ。
まあ、俺の血筋はある意味本物ではあるが。
そして、学問としての占いとは別に、凶相というべき貌もある。
人間とは存外、良くないことを仕出かす前には、相応の良くない貌をするものだ。訓練などでそれを表情に出さぬようにはできても、判る者には判る。雰囲気とでも言うべきか・・・
危うさや脆さ、揺らぎ、憑き物や通り魔などなど……言語化するのは難しいが、総じて『良くないもの』としか表現できぬ雰囲気のもの。
追い詰められていたり、やるなら今しかないという機会や状況の空気感。
一般人でも、そういう不穏さは感じられよう。
そういったときに、道を踏み外すか、それとも留まることができるか。
その辺りに、人間としての真価が問われると言っても過言ではない。
セディックは、丁度その合間にいると言ったところか。良くないことを考えてはいるが、それをまだ実行には移していない。
まあ、俺自身としては、他人に『人を殺めるな』とは口が裂けても言えぬ。
正当防衛、過失、事故。思わぬ事態で、不意に人が死んでしまうこともある。そういった者を罪に問うことができようか?
それに、自身の身を守る為であるとは言え、凶手を幾度も退けているからな。
だがしかし、それとは別に思うこともある。
人を殺傷し、歯止めが利かなくなる者、箍が外れる者、理性を無くす者、精神を病むような者。そういう者は、人を殺すべきではない。
だから、セディックも、人を殺すべきではないのだ。
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