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番外。キアン視点。もう1つの『最悪』2
しおりを挟む「ネイサン・ハウウェルの兄だろうか?」
問い掛けると、ハッとしたような焦げ茶の瞳が向けられた。
「俺はキアン。ネイサン・ハウウェルの友人だ」
「ネイトの、お友達……? 初めまして。僕はネイサンの兄のセディック・ハウウェルです」
張り詰めていた雰囲気が少し和らぐ。
「生憎ですが、ネイト……ネイサンは今、後輩の家の別荘へ遊びに行っていて、僕は今そこへ向かっている最中で。ここにネイサンはいないんですよ」
ネイサンを『ネイト』と呼ぶ、か。やはり、この男で間違いはなさそうだな。
「ああ、知っている。エリオット・フィールズのところだろう。俺も、今朝まで厄介になっていたからな」
「え? き、君、今朝までネイトと一緒にいたのっ!? 川が増水して橋が渡れないから、食料やら物資が届かないって聞いてずっと心配していたんだ、ネイトはお腹空かせてなかった? なにか困ったことは起きてなかったっ!? 怪我とか、雨に降られて風邪ひいたりはしてないっ!?」
矢継ぎ早の質問。
「ふむ……」
この慌て振り、ネイサンに兄のことで話があると告げたときのような反応。さすが兄弟と言ったところか。顔の造作はあまり似てはおらずとも、気性は似たようだな。または、それ程に仲が良いということか。
「食料なれば問題無い。フィールズの敷地には食料の豊富な森があったからな。採集や狩猟をすれば、数ヶ月程は余裕で暮らせると思うぞ? 病や怪我もない。あれは、傾城の美貌をしている割に強かだ。レザンも、そしてフィールズの猟師も付いているのだ。そう心配せずともよかろう」
「そっか……大丈夫、なんだ」
はぁ~と深い安堵の溜め息。
「ネイトのことを教えてくれてありがとうございました」
ふっと微笑むセディック。
「キアン君は、今から食事ですか?」
「うむ」
「では、ここは僕がご馳走しましょう」
「それは有難い」
と、セディックと相席することになったのだが・・・
「え? それ、本当に全部食べるの?」
俺の頼んだ料理が運ばれて来るのを見て、ぎょっとした顔。
「ん? 食う為に注文したのだが?」
「ぁぁ、そうなんだ……よく食べるんだね」
そう言って、なぜか食が進まない様子。
「お前は食わぬのか?」
「えっと、なんて言うか、見てるだけでお腹いっぱいかな……」
どうやら、セディックもリールと同じで小食のようだ。
「そうか。では、食わぬなら俺が貰おう」
と、セディックの分まで食事とデザートまで済ませ、食後の茶が運ばれて来た。
「では、早速本題に入るとしよう」
「本題?」
「ああ、不敬だなんだと言われても面倒だからな。不本意ではあるが・・・一応、国許での俺の身分は公子相当となる」
「え?」
二度目のぎょっとした顔。まあ、大体の者は俺の身上を聞くと驚くからな。
「それを踏まえた上で言おう。お前、馬鹿だろう」
「は?」
「確執に引け目だか負い目だか、罪悪感だかは知らぬが・・・」
セディックの貌を観るに、あまりいい相をしているとは言えぬ。ネイサンよりも、こちらの方が両親との業は深そうだな。
「それらを抱くのは自由だ。しかし、それらを理由にして自身を不幸にするのは如何なものだぞ」
「えっと、なにを言っているのか……」
困惑気味の、けれどなにかしらの心当たりがありそうな表情。
「わからずともよい。聞け。お前の弟は、自身が理不尽な目に遭ったからとそれを嘆き、誰かの不幸を願うような狭量な男か?」
「っ!?」
見開く焦げ茶の瞳。
「数年一緒に過ごしたが、俺にはネイサンがそのような男には見えなかったぞ? あまり、自分の弟を見縊ってやるな。お前になにかあれば、あれは悲しむだろう」
セディックが両親である男女を撃とうとしていたのを、身を挺して止めたのだ。あれは、本人も言っていた通り、ネイサンは両親を庇ったのではない。セディックを庇ったのだろう。
貴族の親殺し、爵位簒奪は発覚すれば罪に問われる。ある程度、どこの国でもそうだ。
__________
面と向かって馬鹿とは言われたことのないセディーは、実はちょっとカチンとしてたり。(笑)
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