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しおりを挟む日が傾くまで二人の打ち合いが続いた。
「ねえ、そろそろ終わりにしない?」
「ふむ……そうだな。燻製の方も気になるからな。今日のところはこれくらいにしておこう」
「そうか。わかった」
武器を片付けて、エリオットとリールにも声を掛けてテラスへ戻ることに。
「……」
すると、にこにことやり切った顔のエリオットと、どこか困惑したようなリールがいた。
「首尾はどうだ?」
「バッチリですっ」
「リールの顔はバッチリって感じじゃないんだけどね? ちなみに、なにをしていたの?」
「そうですね~……逃げるときの心構えをお話していましたっ」
「へ~、どんな心構えよ?」
「まずは、自分の味方になってくれそうな人を探します」
「おお、いきなりの他力本願!」
「間違ってはいないな」
「うむ」
「どんな人探すん?」
「レザン先輩みたいな人とか、ハウウェル先輩みたいな感じの人です!」
「やー、レザンとかハウウェルみたいな奴って、探すのムズくね?」
「ふむ……騎士を探せということだろうか?」
「あ~、そりゃ確かになー」
「騎士というよりは、自分のことを助けてくれそうな人ですねっ。レザン先輩もハウウェル先輩も、僕が困ってたり助けを求めていたら助けてくれますからっ」
胸を張って断言するエリオット。
「おおっ、出た! フィールズの、なんか無駄に厚いレザンとハウウェルへの信頼感! つか、イケメンにーちゃんみたいな人には助け求めないん?」
「外国の方に助けを求めると、場合によっては国際問題になっちゃいますからね。あ、キアン先輩みたいな性格の方ならOKですよ?」
「キアンみたいな性格って、そうそういないでしょ」
「……それは否定しないが、街中で自分を助けてくれそうな他人を探すのは難しいと思うのだが?」
「? そうですか? 助けてください! って、お願いすれば結構皆さん助けてくれますよ? 親切な人は多いです」
「……それは、フィールズだからだろう」
「?」
「ま、フィールズみたいな美少女な顔に助けてください! って言われて、それを無下にはできねーよなー」
「顔、関係あるんですか?」
「大いにある! そして、助けた後でこんな可愛いのに女の子じゃないとわかって、きっとめっちゃがっかりする! 俺なら心底がっかりする!」
「な、なんだかとってもヒドいことを言われてるような気がしますよっ?」
「まぁ、実際問題、街中で他人に助けを求めるのは少し難しいよね。騎士や警邏、自警団なんかの見回りをしている人達に助けを求めるのは間違っていないと思うよ」
「うむ」
「しかし、都合良く治安維持部隊がいるワケでもなかろう」
「はいっ。そういうときは、走って逃げます! 逃げるときの注意点は、袋小路に逃げ込まないことですね。行き止まりで追い詰められちゃいますから」
「え~、なんかふつーじゃね?」
「いざというとき、身体を動かすのは案外難しいんですよ? 怖いと身体が強張ったり、震えたり、緊張して思うように動けなかったり、酷いと腰が抜けちゃったりしますし。逃げる前に動悸と息切れがして、くらくらしたら大変なんですよっ」
「なんか、めっちゃ実感がこもってんだけど?」
「伊達に長いこと、姉様達から逃げてませんからね……」
「ぁ~、なんかすまん」
「そう言えば・・・お前の女難は薄れたようだな? 小動物よ」
ふっと遠くを見詰めるエリオットを、琥珀の瞳が見据える。
「ほ、本当ですかキアン先輩っ!?」
「なにかあったのであれば、小動物自身がよくわかっているであろう」
「実はですね、姉様達に謝ってもらったんです。『酷いことしてごめんなさい』って」
「ほう、そうか。よかったな。家族仲が良いのはよきことだ」
うんうんと頷いて、ぽんぽんとエリオットの頭を撫でる褐色の手。
「はいっ♪」
「まあ、薄れたとは言え、お前の女難はまだ残っているからな。気を付けるがいい」
「ええっ!?」
「お前の選択次第によっては……」
「ハッ! る、ルリアちゃんがグレちゃうんですよねっ!?」
「……そういうことだな。確りと、その娘のことを見ていろ」
「はいっ!!」
話が見えないけど、どうやらエリオットもキアンからなにかしらのアドバイスをもらったということだろうか? ルリア嬢がグレるという姿はいまいち想像できないけど。
「では、護身術はまだ教えていないということか」
「あ、はい」
「そうか。では、それは明日だな」
と、わちゃわちゃ話しながらテラスへ戻って燻製作り。
そして、燻製作りの延長で夕食を食べた。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰
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