虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「ぁ~……まぁ、食後の運動・・だからじゃない?」

 キアンはナチュラルに物騒だからなぁ。きっと、自分からは仕掛けないことで本気・・を出さないようにしている感じかな?

 騎士学校時代でも、基本的には受け身で自分から攻撃をすることはあまりなかったし。それでいて、勝てる相手にはしっかりと勝つんだからなんとも言えない。

 受け身なスタイルで、剣……手持ちの武器だけじゃなくて手や足が出ることもある辺りはわたしとも少し似ているけど、腕は段違い。更には、複数の武器を使いこなす器用さ。キアンは完全に、わたしの上位互換という感じだ。だから、見ていると結構勉強になる。まぁ、キアンと同じ動きができるワケじゃないんだけど。それでも、動きの参考にはなる。

「?」
「さて、ではそろそろ身体も温まって来たことだ。お前らも暇ならば、礫でも投げて参加するがいい」
「ん? つぶて? 投げる?」
「えっと、キアンに向かって石とか投げろって」
「は? いや、なんでそんなことすんすか?」
「飛び道具から身を守る為の訓練だ!」
「あ、なるほどー……って、危なくねっ!?」
「ん? 危険だからこそ、訓練をするのであろう? なあ、屈強なる剣士よ」
「うむ。当てるつもりで投げて構わんぞ」
「えー……ちょっ、これ、マジで言ってんの?」

 テッドが困ったような顔でわたしを見る。

「まぁ、本気だろうね。さすがに石を投げるのは嫌だから、小枝とかでいい?」
「よかろう。但し、あまり殺気は飛ばしてくれるな。思わず、打ち返してしまいそうになるからな」
「や、別に殺気なんて飛ばさないって」

 と、小枝を拾って、レザンとキアンが打ち合っている合間に適当に投げることにした。

「なぁ、マジで投げんの?」
「ふっ、そう心配せずとも、華麗に避けたりしようではないか!」
「らしいよ?」

 困り顔のテッドを余所に、リクエスト通りにレザンとキアンが打ち合っているところへぽいぽいっと小枝を投げ込む。適当に投げたので、二人はチラリと一瞥。かわすまでもなく当たらなかった。

「あ、そんな感じでいいの?」

 適当な投げ方に、少し安心したような表情。

「こんな感じというか……まぁ、見てて」

 と、今度は当てるつもりで鋭く投げる。けれど、さっきよりも素早い反応で躱される。

「なぜか、狙って投げる方が早く反応されるんだよねぇ」

 なんだろうか? キャッチボールとかで、狙って投げたボールよりも、意識しない方向からの流れ弾の方が受け損なったり、避け難い感じに近いのかもしれない。

 だから、気配やら害意、敵意に敏感な人には、確りとその本人へ当てるつもりで狙って投げるよりも、適当に投げた方が当たり易かったりする。

「なら、俺も投げてみるかな」

 と、テッドが遠慮がちに小枝を放る。そして、その小枝を避けた先を計算して小枝を投げると、さすがに躱せなかったのか、木剣と短槍がそれぞれにパン! と振り払った。

「おおっ!? なんかかっこいいっ!」

 最低限の動作だけで小枝を振り払い、また互いに向かって行くレザンとキアンの姿に安心したのか、遠慮がちだったテッドが次々に小枝を放る。合間に、わたしが鋭く投げた小枝が叩き落とされる。

 そんなことを繰り返していると、

「では、そろそろ武器を変えるとしよう」

 ニヤリとキアンが笑った。

「いいだろう」

 レザンが頷くと、槍、こん、杖、剣と武器を変えながら組み合う二人。

「やはり、剣が一番扱い易いな」
「そうか。では、俺も剣にしよう」

 と、今度は木剣を二振り手に取るキアン。

「に、二刀流っ!?」

 テッドが興奮したように声を上げる。

 まぁ、わからなくはない。二刀流は、かっこいい。ある意味男の浪漫だと言える。

 でも、剣を二振り持ったからと言って、強くなるワケじゃないんだよねぇ。

 ぶっちゃけ、二刀流は難しい。その上、疲れる。剣が一振りで数キロの重さがある。それを二つも手に持っていなければいけない。一本の剣を同じ姿勢……両手で握って構え続けるのだって、それなりに筋肉と体力が必要となる。それを、片手に一本ずつとなると疲労するのは当然。更には、剣を握り続ける為の握力も必要不可欠。相手と剣を交わして一合目で剣がすっぽ抜けるようじゃあ話にならない。

 二本の剣を同時に掴み続けられる握力、振り回せる体力、そして両手で扱える器用さ。これらが揃って初めて、漸く二刀流の剣士になれる。

 剣を二本持てば、それで二刀流の剣士を名乗れるワケじゃない。だからこそ、真に実力のある二刀流の剣士は希少だと言える。

 流れるような動きで、まるで踊るかのようにレザンと剣を交わすキアン。

 なんでも、キアンを育ててくれたじいやさんが元々は将軍で、将軍職を引退した後は王女であったキアンの母君の護衛を務めていたのだとか。キアンは、その元将軍の護衛対象であり、弟子だとも言えるそうだ。ちなみに、ばあやさんは母君の侍女だったとか。

「すっげーっ! イケメンにーちゃんかっこいいっ!」

 きらきらした瞳でキアンを見詰めるテッド。

 と、日が傾くまで二人の打ち合いが続いた。


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