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しおりを挟む裏庭の方へ移動。
空は曇り。地面は、湿っている。
水溜まりはないけど、足場がいいとはあまり言えない状態。
「さて、やるか」
「はいっ」
エリオットとキアンがごちゃごちゃとした荷物を下ろす。
「まずは……剣にでもしておくか。お前は槍でどうだ?」
キアンは木剣と穂先を取り付けていない短槍とを手に取り、石突きの方を向けて短槍をレザンへ差し出す。
ちなみに、練習用の木剣はフィールズ家の物で長剣や短剣など、数種類の長さの物が揃っている。
そして、短槍や棍などはキアンの私物。というか、棍と槍はそれぞれ組み立て式のようで、長さをある程度自由に変えられて、杖としても使えるなど、携帯にも便利なのだとか。「これは特製でな。組み合っているときにバラして、二刀流にもできるのだ」と自慢されたことがある。鍔迫り合いでいきなり途中から割れて、二刀流になるとか。
それって、暗器なんじゃ……? まぁ、深く考えるのはよそう。
「いいだろう」
と、レザンが短槍を受け取る。
「小動物よ、眼鏡に襲撃されたときの逃げ方と簡単な護身術を教えてやるがいい」
「わかりましたっ。行きましょう、グレイ先輩!」
「……はぁ、わかった」
エリオットに引っ張られ、溜め息を吐きながら付いて行くリール。
「ハウウェルはやんねーの? レザンとイケメンにーちゃんとさ」
「や、あの二人はレベル高いんだって」
邪魔する程度なら兎も角、あの二人が真剣にやり合っているところに交ざれる程、わたしの腕はよくない。
「前から言ってるでしょ? レザンは実技が学年一位。キアンは……五指に入るくらいの強さ。で、わたしは学年でも真ん中辺りをうろうろくらい。実力が違い過ぎる」
「そんな違うもんなの?」
「かなり違う」
「ふ~ん。で、フィールズとリールの組み合わせも意外なんだけど」
「ああ、エリオットは素手の方が強いから。逃げるのも隠れるのも得意だし。キアンの言う通り、護身術を教えるならわたしよりも適任だと思う」
「へ~。フィールズがなー」
納得していなさそうな顔で二人を見やるテッド。
「では、構えろ」
「うむ」
石突きの方を上に短槍を構えるレザンに対し、木剣をだらりと下げたままのキアン。
「ハッ!」
気合の声と共に鋭い突き。それを、無言で跳ね上げた木剣が逸らす。すかさず引いた石突きが連続で繰り出され、ステップでも踏むような軽やかな動きで躱すキアン。
ガツン! と激突して組み合ったかと思えば、パッとまた離れる。レザンの攻撃は重い。それを、苦も無く受け止め、キアンはひらりと躱して捌く。
相変わらず、舞っているかのように優雅ささえ感じる身のこなし。普通、槍と剣ならリーチの長い槍の方が有利なんだよね。
ニヤリと獰猛に笑うレザンに、ふっと楽しげな笑みを返すキアン。
「あれ? イケメンにーちゃん、マジで強い? なんか、めっちゃ余裕そうなんだけど?」
「さっきからそう言ってるでしょ」
「でもさ、イケメンにーちゃんからは攻撃してなくね? レザンばっかり攻撃してさ」
「ぁ~……まぁ、食後の運動だからじゃない?」
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