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「遠慮するな。しばし待っていろ」

 と、席を立ってキッチンへ向かうキアン。

「……キアンの淹れるお茶になにかあるのか?」

 リールが不審そうにわたし達を見やる。

「なにかって言うか……ねぇ?」

 思わずレザンとエリオットと顔を見合わせる。

「うむ……」
「キアン先輩のお茶はですね……その、当たりハズレが大きいんですよ」

 ふっと遠くを見詰めるエリオット。

「? 当たりハズレ? なにそれ?」
「まぁ、キアンが来ればわかるよ」

 そして数分後。甘い湯気を漂わせて、キアンがお茶を三人分運んで来た。

 わたし達の分は、注文通りのものを使用人が用意してくれた。ああ、よかった・・・

「さあ、飲むがいい!」
「それじゃあ頂きまーす」
「・・・」
「熱いから気を付けて飲め」

 「……今日は 甘そうな やつみたい ですね」
 「……苦いの とか辛いの エグいくらい渋い だけのよりは、 まだマシじゃない?  一番の当たりは 普通のやつ だけど」
 「……普通のと 薄いの以外、 キアンの茶は 苦手だ」

 なんてひそひそと話していると・・・

「あっつっ!!」
「だから気を付けろと言ったであろう」
「・・・なんだ、これは」

 ちょっとだけ熱いお茶を啜ったリールが、盛大に顔をしかめる。

「ん? 知らぬか? チャイだ。茶葉をスパイスと一緒に濃く煮出して、砂糖とコンデンスミルクを加えたものだ」
「……俺には甘過ぎ、る……」
「ぁ~、確かに甘……って、なんか辛いんだけどっ!? え? な、なんか苦い気もして来た……なにこれっ!? み、水~っ!!」
「……辛い。生姜も入れ過ぎだ」
「ふむ……甘くしたから、美味いと思うのだがな?」

 チャイは、お茶に生姜やスパイスなどを加えて一緒に濃く煮出し、砂糖とコンデンスミルクをたっぷりと混ぜたミルクティーの一種だ。美味しいチャイは美味しいみたいだけど・・・淹れ方やレシピによっては、大変癖が強く出る。たっぷり入っている砂糖とコンデンスミルクで最初は甘く感じるけど、生姜やスパイスが辛かったり、濃いお茶の渋みが後からやって来たりと。本格的なチャイは、初めての人には味覚が大渋滞を起こす系のお茶だったりもする。

 匂いはいいんだけどね? 飲むとなぁ……

 水をがぶ飲みするテッドと、カップに並々と残るチャイを渋い顔で睨むリールを余所に、わたし達は注文通りのお茶を美味しく頂いた。

 ちなみにキアンは、そこらの雑草やらハーブ、薬草を生だったり乾燥させたり、スパイスを混ぜたりして怪しい特製ブレンド茶をよく作るんだけど・・・草の種類と効能によっては、とんでもなく不味いお茶ができあがる。

 キアン本人は、「良薬は口に苦しだからな!」と平気な顔で飲んでいるけど、知っている人はみんなキアンの淹れるお茶はなるべく飲まないようにしている。

 でも、不思議なことに、体調の悪いときにキアンの淹れたお茶を飲むと、なぜか美味しく感じることがあるんだよね。まぁ、体調が良くなったときに、同じだというお茶を飲むと不味く感じるという謎現象。

 キアン曰く、「ふっ、身体が求めているから美味いと感じるのだ!」らしい。本当かどうかはわからないけど。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰



 本格的なチャイはレシピによっては癖が強くて、日本人の口には合わなかったりするそうです。お店で売ってるようなチャイは、スパイスの量を減らしたりなど、大抵はアレンジ済みのようです。

 そしてキアン的には、薬草やらハーブは解毒作用があるので、本当に薬湯感覚で飲んでいる部分があります。(笑)


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