虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 着替えと準備をして、キアンに付いて森に入った。

 レザンは、森の見回りだそうでわたし達とは別行動。そして、今日はテッドとリールが筋肉痛とのことで、エリオットは二人に付き合ってお留守番。

 二人で森に来たのはいい。でも・・・

「なにしてんの? 君は」

 キアンがいそいそと土を掘って根ごと籠へ入れているのは、とある有名な草。

「それ、毒草だよね?」

 わたしの見間違いでなければ、それは野営をするときには毒があると真っ先に注意されるような草だ。それをわざわざ土を掘り返して、根ごと採取して油紙に包んで籠へ入れている。

「ふっ、知らぬか? これは、適切に処理すれば薬ともなることを」
「それは前に、君から聞いた覚えがある。けど、あれでしょ? 君、その適切な処理の仕方を知らないんだよね? 『俺は処理の仕方を知らんがな!』って、言ってたよね?」

 それなら、普通に毒だと思う。

「麗しき同志よ、俺も進化しているのだ」
「それは、薬の作り方を覚えたってこと?」
「今日は色々と・・・補充する予定でな。あまり詳しくは聞かぬ方がいいだろう」
「そう・・・ま、いいけど」

 今日は、キアンが自分で使用するものの補充目的、ね。昨日は、テッドとリールがいたから配慮して、あからさまな毒物の採集はしなかったということだろう。

 なに・・に使うかなど、聞くだけ野暮というもの。知らん振りをしろということだ。と、毒っぽいものの採集には目を瞑ることにした。

 それから、歩きながら……穴を見付けたら穴に手を突っ込み、

「ふむ……狸か穴熊だと思ったのだがな? それらの巣穴を乗っ取ったようだな。狐は食えんこともないが、臭いからな。この大きさでは、大して毛皮も取れん」

 泥だらけになりながら引っ張り出した子狐を不満顔でポイっと放ると、キアンに放られた子狐は怯えたようにぷるぷると震えながらサッと巣穴へと戻って行った。

「鳥も、量を捕まえねば食いでがない。やはり、兎や穴熊が手頃だな」

 そんな感じで草を採ったり、生き物の巣穴に手を突っ込んだりと、好奇心旺盛な子供ばりに素早く、そしてあちこちと忙しなく動き回るキアンに付き合っていたら・・・

 昔、ロイと森を歩いたときのことを思い出した。

 ロイもよく、動物の巣穴に手ぇ突っ込んでいたよなぁ、と。噛まれたり引っ掻かれたりして傷を作っていた。そして、それを見ていたスピカが真似しようとして、必死に止めたんだよね。

 コイツ今、十七だよな? 丸っきり行動が子供なんだけど? なんて思いながら、付いて歩いていたら――――

「っ……疲れたっ……」
「麗しき同志よ。在学中に比べ、体力が落ちたのではないか?」

 息を乱すわたしを、泥だらけの呆れ顔が見下ろす。籠には、毒草っぽい草やハーブ、多分薬草など。そして、その肩やら腰には仕留めた小動物が下げられている。一部の獲物は、わたしも持っているけど。

 おそらく、昨日は本当にのんびり歩いていたのだろう。普段から毎日徒歩で移動しているキアンの体力を、舐めていた。

「そのような有様では、有事の際に危険だぞ?」

 ……レザンのようなことを言われてしまった。でも、キアンの日常は、有事だらけのサバイバル。その彼には、あまり言い返せない。

「まあ、いい。では、同志もへばっていることだし、そろそろ帰るとするか」

 と、別荘へ戻ることにした。


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