虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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番外。キアン視点。『最悪』の予見。

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「お前はっ、なんてことをしてくれたんだっ!? これでうちの商会はお終いだっ……」
「お前が、貴族相手にあんなこと言うからっ!!」
「従業員達だけでも、どうにかしなきゃ」
「そうですね。紹介状を書き終えたら……」

 怒りの表情で怒鳴る男。絶望の表情で、ロープを手に取る女。



※※※※※※※※※※※※※※※



「お前が、お前のせいで負けたっ!! お前のせいで破産だっ!? 俺はもう終わりだっ!? こうなったのはお前のせいだっ!? 死ねっ!!」

 憤怒の顔でナイフを振りかざす男。


※※※※※※※※※※※※※※※



「♪~」

 ご機嫌な様子で書類を眺め、鼻歌を歌う少女。

「ふふっ、わたくしの目を掻い潜って縁談の申し込みだなんて、そんなの駄目よ。悪い子にはお仕置きしなきゃ。誰かに襲わせるか、醜聞を流すか……それとも、家自体を潰しましょうか? そうね、そうすれば即破談だものね♪」

 少女はぎゅっとぬいぐるみを抱き締め、

「あなたがわたくしを選んでくれなくても・・・わたくしが、守ってあげますわ。ずっとずっと、愛しています・・・エル兄様」

 切ない顔でうっとりと呟いた。



※※※※※※※※※※※※※※※



「……軍法会議だそうだ。お前の上司……元上司が、敵側に寝返っていた。お前の流した情報で、何名も死んでいる」
「なあ、こんなことになる前に、なにかおかしいと思わなかったのか?」
「……なんか言えよ、レザン!」

 親子と思われる三人の男が、険しい表情でこちらを見ている。



※※※※※※※※※※※※※※※



 パン、パン、パンと連続して鳴り響く乾いた音。

 くずおれる男女。

 焦げ臭い硝煙の臭いに、床を汚す流れる赤。

「ふ、ふふふ……要らないんですよ。あなた達なんて必要無い。ああ、もっと早くこうしていればよかった」

 銃を手にし、クスクスとくらく濁った瞳で柔らかくわらう細身の男が振り返る。

「ねぇ、そうでしょ? これで僕達の邪魔をする奴らは消えた。もう大丈夫だよ、僕が守ってあげるからね。ネイト」



※※※※※※※※※※※※※※※



 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 ふっ、と意識が浮上して目を覚ます。

「……ふむ、『最悪』を視た……か」

 そこそこの夢見の悪さと言ったところ。

 自分が死ぬ、しかもその痛み付きの夢よりは幾分マシだが・・・

 視えたのは、それぞれの最悪の未来。

 友の『最悪』を視るのもあまり気分がいいとは言えんな。

 俺のこの、へぼ占い師の血筋は『最悪』を予見するもの。

 賢王女と国内外に名高かった王妹である母が選んだ男は、奴隷の男だった。

 なにを思って選んだのかは知らんが・・・

 王家に凶兆をもたらし、災厄を呼び寄せたとして奴隷に落とされた占者の血筋の男。

 の血筋が予見するのは、『最悪』のみ。

 『最善』や『最良』を選び取れるようなものではない。

 しかも、『最悪』の未来は流動し、必ずしもそうなるワケでもない。その上、個人によって『最悪』は異なり、人の数だけ『最悪』がある。

 そして、この予見はその『最悪』に至るまでの出来事が知れるワケでもない。

 そこ・・へ至るまでの原因も過程もわからず、視るのは『最悪』の結末だけ。視ようと思って視えるものでもない。故に、へぼ占いだと思うワケだが・・・

「さて、どう伝えるべきか……」

 どういう風に伝えれば、あれら『最悪』を回避できるだろうか?

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