虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「わぁっ!? いっぱい採れましたね! さすがです!」
「ふむ……これだけあれば、一週間程は大丈夫だろうか?」

 と、やって来たのはわたし達よりも濡れている二人。

「なにか採れたか?」
「うむ。鹿を一頭仕留めたぞ」
「おっきい鹿ですよ! レザン先輩が仕留めたんです!」
「ほう、鹿か。あれは煮ても焼いても美味い。して、獲物はどうした?」
「おっきいから荷車で運んでもらってますっ」
「では、解体に手を貸すとしよう」
「か、解体……?」
「慣れぬなら、別に無理をして参加せずともいい。中へ戻っているがいい。仕立て屋よ」
「まぁ、血抜きとか、生皮剥いだり、内臓取り出したりもするからねぇ。血塗れにもなるし。あれ、初めて見ると食欲なくしたり、肉を食べられなくなったりする人も多いんだよね。あんまり無理はしない方がいいよ? 結構重労働でもあるし」

 騎士学校時代。初めての野営で、動物が絞められるところを見て泣きながら吐いている奴とかいたし。育ちがいい子供には、結構ショッキングな場面なんだよねぇ。

 教官によると、男よりも普段料理をする女性の方が動物を解体するのに慣れるのが早いらしい。愛玩する対象ではなく、肉……食べ物なのだという認識に切り替えるのが早いのだとか。まぁ、箱入りのお嬢さんに関してはその限りではないみたいだけど。

「な、生皮に内蔵……」

 わたしの言葉に、テッドの顔が若干青くなる。

「……手伝う気があるなら、絞めた鳥の羽をむしることからしてみるか?」

 と、リールがキアンの仕留めた鳩を持ち上げる。

「・・・あ~、その、遠慮しとく。中戻ってるわ。けど、夕飯楽しみにしてるからな!」
「ああ、もしかしたら内臓系の料理は出るかもだけど、肉の部分は明日以降の食事に出されるんじゃない? 処理したばかりの肉より、少し時間を置いた方が美味しいからね」

 内臓は傷み易いから早めに食べた方がいい。

 そして勿論、絞めたてで肉が食べられないワケじゃない(メンタル的に無理な人はいる)けど。やっぱり、肉はある程度の時間を置いて、熟成した方が味が良くなる。

「マジかー。じゃあ、応援してるわ」

 テッドが残念そうにしょんぼりした様子で中へ戻って行った。

「さて、では取り掛かるとするぞ!」

 使用人達は自分達がやるからと遠慮していたけど、鹿一頭と小動物に野鳥が数羽。この量を処理するのは時間が掛かる。それならみんなで一気にやった方が早いとみんなで解体をした。

 粗方の作業が終わって顔を上げると・・・

「ふぅ・・・見事に血塗れだね」
「ククッ……不審者の集団だな。外を歩くと通報されそうだ」
「美味しく食べる為ですからね~。仕方ありませんよ~」
「うむ。楽しみにしているぞ!」
「……まさか、貴族子弟が本当に解体作業までこなせるとはな」
「ふっ、俺は皮のなめし作業までできるぞ!」

 毛皮の鞣し作業まで行くともう、それは猟師や職人の領分だ。

「君って、本当に色々できるよね」
「フハハハハハ、何事も経験だからな!」
「それじゃあ皆さん、ちょっと冷たいですけど、井戸水を被ってから中に入りましょうか」

 と、順番に井戸水を被って簡単に血を落とす。

「ぁ~……さすがにちょっと寒いかも」

 濡れた髪を解いて、ざっと絞る。

「ですね~。お風呂に入ってゆっくり温まってくださいね~」

 と、別荘の中へ。

「うおっ!? なんでお前ら濡れてんのっ!?」

 玄関で出迎えたのは、驚き顔のテッド。

「うむ。水を被って血を落としたからな」
「……なあ、まだ血付いてんだけど?」

 わたし達の服へと目を落とし、ドン引きしたような顔。そういうテッドは、既に汗を流したのかさっぱりした様子。

「顔とかの血は落ちてると思うけど?」
「え? そんな血ぃ出んの?」
「解体作業だからな。こんなものであろう」
「……さすがに大物があったからな。鳥や兎程度ではここまで汚れない」
「ま、そういうワケで今からお風呂なんだよね」
「え~、また俺を放置かよ~。何時間も放っとかれたってのによ~」
「濡れたままだと風邪ひくから」

 と、不満顔のテッドを置いて各々部屋へと戻った。

 夕食のときにはテッドが自分を構えと騒いでいたけど、みんな結構お疲れな感じで、いつもよりも言葉少なに夕食が終了。

 そして、多分大丈夫だとは思うけど念の為にとレザンがキアンの部屋へ泊まることになった。

 今日はさすがに、わたしとエリオットは使いものにならない。

 キアンのことはレザンに任せて、寝た。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰

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