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「なにに参加するのだ? 仕立て屋よ」

 ひょいと割り込む悠然とした声。

「おおっ!? イケメンにーちゃん!」
「おはよう、麗しき同志と賑やかなる仕立て屋よ」
「おはよう、キアン」

 挨拶を返すと、艶やかな琥珀の流し目が向けられた。どうやら、昨日よりは体調がいいらしい。それはいいとして、なぜに流し目を寄越すのか……?

「おはよー。な、な、聞いてくださいよ。ハウウェルってば、昨日は誰かの部屋でお泊り会なんかしてやがったんすよー? 俺とリールをほっぽってさー。フィールズの部屋かレザンの部屋か……ハッ、それともイケメンにーちゃんの部屋だったりっ!?」
「ふっ、よくぞ気付いたな、仕立て屋よ! そうだ、昨夜は二年振りにあった我が同志達とつもる話があってな……ついつい夜更かしをしてしまったのだ!」
「えー、ズルいっすよー」
「フハハハハハ、羨ましかろう!」
「……朝っぱらからなんの騒ぎだ?」

 高笑いに、怪訝そうな声。

「お、リール! 聞けよ、ハウウェル達ってば、昨日俺らに内緒でイケメンにーちゃんの部屋でお泊り会してやがったんだってよ! ズルくね?」

 どうやら、キアンはイケメンにーちゃんで定着したようだ。

「……子供じゃあるまいし。はしゃぎ過ぎじゃないか? そんなことより、俺は朝食を食べに来たんだ。静かにしろ」
「えー、リールが冷たいー」
「眼鏡は冷静だな」

 と、ブーブー文句を言ってウルサいテッドに飄々としたキアンが適当に応じ、わーわー話す賑やかな朝食となった。

「そう言やさ、フィールズとレザンは?」
「小動物と剣士ならば、周辺を散歩して来ると言っていたぞ」
「散歩?」
「ああ」

 散歩というか・・・まぁ、どちらかと言うと哨戒しょうかいに近いと思うけど。

「いいなそれっ。な、な、俺達も探検行かね?」
「……お前、本当にはしゃぎ過ぎだぞ」

 探検と言い出したテッドへ冷ややかな視線を送るリール。

「麗しき同志よ、どうする?」
「ぁ~……まぁ、悪くないんじゃない?」

 なにかあったときの為に、周辺の様子をちゃんと自分の目で見て把握しておくのは大事だ。地図上だけでは、わからない情報がある。

「……ハウウェルまでそんなことを言うのか?」

 テッドに同意するな、と非難するような視線。

「おー、なんだなんだハウウェルも探検したかったのかよー? それじゃあ、早速行こうぜ!」
「ま、探検というよりは、避難経路の確保かな? 長雨で土砂崩れとかしてもなんだし」
「なっ、おまっ、そんな不吉なこと考えてんのっ!?」
「……それはそれで、予想外な返答だな。まあ、単なる探検よりは意義があるだろうが」
「さすがは我が同志。安全確保に余念がないとは素晴らしい心懸けだ!」

 と、フィールズ家別荘付近を探検することとなった。


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