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「まぁ、レイラ様のお気持ちはわからなくもありませんけどね」
「?」

 小さく呟かれた声に首を傾げると、にこりと微笑むだけでケイトさんは答えてくれず、

「メルンさん」

 テッドを呼んだ。

「あ、はい。なんでしょうか? 部長」
「フィールズ様の可愛いは、別に女性を口説いての言葉ではなくて、そうですね……親戚の子を可愛いと言うのと似たニュアンスではないでしょうか?」
「あ、そっか。あの二人、元々親戚でしたっけ」
「一応、顔の系統は似てると思うんだけど」
「え? マジで?」
「浮かべる表情の違いで、印象がかなり違っている風に見えるのかもね」

 フィールズ嬢は、客観的に見て美少女だと思う。エリオットが垂れ目気味なのに対し、吊り目気味ではあるけど、顔の系統的には似ていて、どちらも可愛い系だろう。

「笑った顔は二人共似ているよ」
「え? あのお嬢さん笑うのっ? ツンツンしたとこしか見た気がしないんだけど?」
「ま、普通、親しくない人には作り笑いか愛想笑いしかしないでしょ」
「や、そういう問題じゃねーじゃん」
「メルンさん。レイラ様に失礼ですよ」
「あ、すみません」
「まぁ、フィールズ嬢は公爵令嬢だからね。わたし達とはエリオットの親族という縁で関わりができただけで、学年も違うし。普通に学園で過ごす中では、お近付きになる機会なんかそうそう無い相手なんだよ。君、そこのところちゃんと理解してる?」

 親族でもなく、婚約者でもない、性別も、爵位も身分も、学年も、部活も違う。そんな相手と知り合いになるのは、かなり難しいと思う。

「ハッ! 言われてみれば、公爵家のお嬢様って、箱入り中の箱入りなガチお嬢様だったっ!?」
「レイラ様はかなり気さくな方ですが、箱入り……と言えば、箱入りになるのかもしれませんね」
「え? 気さくなんですかっ?」
「ええ。かなりシャイな方だと、よく知らない方とは自分では直接お話せず、侍女やお友達などに代わりに話してもらうというお嬢さんもいますから」
「あ、なんか、そっちのが深層のお嬢様のイメージっぽいですね!」
「ふふっ、そういう方も、この学園にいないこともありませんからね。けど、そういう方だとネイサン様の仰る通り、お知り合いになること自体が難しいでしょうね」
「は~……ああ、そういう意味で、気さくなお嬢様ですか」
「ま、フィールズ嬢は結構すごいと思うよ? なにせ、レザンにも気後れしないで話せるようなお嬢さんだからね」

 三白眼で目付きが悪くてムキムキな長身。更には威圧感があって、女性には受けの悪いレザンを怖がる様子がないし。

 それになにより、やらかした相手に自分から直接謝りに行ける度胸。

「おおっ、それはマジですごい! 豪胆なお嬢様だぜ」
「ああ、ほら、あっち。今、二人共笑ってるよ」

 ふと、見ると、丁度エリオットとフィールズ嬢がワルツを踊りながら笑い合っていた。

「あ、ホントだ。あのお嬢さん、笑うと可愛いんだ・・・ハッ! 今思い出したけど、部長、レザンと踊ったんですよねっ?」
「ああ、ルリアさんとリヒャルト……弟の為のダンスレッスンのことですか?」
「え? 弟さんのダンスレッスン?」
「はい。リヒャルトと、ルリアさん……フィールズ様の婚約者様のことですが、仲良くしていまして。フィールズ公爵家でダンスレッスンをするときに手を貸して頂きました」
「な、な、どんな感じだったん? 部長とレザンのダンス!」

 興味津々という顔でわたしを見詰めるテッド。

「う~ん……ド迫力でダイナミックなタンゴって感じ?」
「タンゴ! レザンとっ!?」
「うん? 呼んだか?」
「や、呼んではねーけど……ってか、いつの間にかテーブルが空にっ!?」

 さっきから静かだと思ったら、レザンは料理を食い捲っていたようだ。空の皿がテーブルに幾つも積まれている。

「うむ。今年も美味いぞ。無くなる前に食べておくといい」
「ふふっ、相変わらずクロフト様は健啖家のようですね」
「部長、今日は踊らないんですか?」


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