虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 フィールズ公爵家でダンスレッスンをした翌週。

「あ、ハウウェル先輩っ」
「なに?」
「えっと、ですね、またダンスレッスンに来てくれますか?」

 ちょっと言い難そうにエリオットが聞いた。けど……

「? セディーからは、そんな話聞いてないよ? ケイトさんもなにも言ってないし」

 手を貸してほしいという話は聞いていない。

「ああ、セディック様とケイト様からのお話じゃなくて、おばあ様です。こないだのレッスンは、ケイト様にお任せして顔を出すのを遠慮したそうなんですけど・・・その、どうしてもハウウェル先輩とダンスがしたくなったそうです」
「ああ、ターシャおば様が……」
「はい。レッスンの様子を見ていたそうなんですけど、『一回目は眺めるだけで我慢したのだから、二回目はわたくしも参加したいですわ~』って言ってて」

 ターシャおば様なら、言い出しそうではある。

「というか、あのダンスレッスン見ていたんですか」
「はい。広間の上の階でこっそり覗いてたみたいです」

 こっそり・・・まぁ、あの方はかなりお茶目な方ですからねぇ。

「多分、一回ハウウェル先輩と踊れば満足すると思うんですけど……」
「えっと、かなり失礼だと思うけど、ターシャおば様はダンスが踊れる? さすがに、クイックステップやタンゴのリードは勘弁してほしいんだけど」

 女性にお年の話をするのもアレだけど・・・確か、ターシャおば様は六十手前くらい? のおばあ様よりも年上。おばあ様は活発な方だし、偶にダンスのお相手をすることがあるから身体が動くことは知っている。けど、ターシャおば様がどの程度踊れるかは、全くわからない。

 怪我とかは、とても怖い。

「ああ、そうですよね。おばあ様、もう六十……幾つだったけ? という年齢ですからね。無理はしないよう言っておきます。あと、ちゃんと踊れるかの確認もしておきますね?」
「うん。一応、『ターシャおば様が踊れるのでしたら、スタンダードワルツは如何ですか?』って聞いておいて。それで、君が自分でターシャおば様のリードをして、踊れるかをちゃんと確認して。それでターシャおば様のお身体に問題がなければ引き受けます。けど、少しでも怪しいと思ったら、君が説得して絶対にやめさせてね? わたしがお相手をして、前公爵夫人にお怪我でもされては、困りますからね。エリオット」
「ぁ~……はい。わかりました。一応、僕もおばあ様にお怪我でもされたら怖いですからね。説得は頑張ります。お祖父様とルリアちゃんにもお願いしとこ……」

 しょっぱい顔で頷くエリオット。

 そんな話をして、数週間。

 学期末テストの時期がやって来ましたよ。

 いつもの通り、わーわー騒ぐアホ共。呆れ顔のリール。そして、相変わらず同学年に友人がいないのか、わたし達の勉強にしれっと交ざっているエリオット。

 わちゃわちゃしながら勉強をして、数日間にも渡る試験という名の戦いが終わり――――採点されたテストが返って来た。

「・・・ふっ、空が青いぜ」

 と、空を仰いでいる奴が一人。これは・・・

「えっと、どうしたんですか? メルン先輩」
「……フィールズ、そっとしておいてやれ。あれはきっと、補習への現実逃避だ」

 心配そうな顔のエリオットに首を振るリール。

「ええっ!? とうとう取っちゃったんですかっ!? 赤点を……お休み、短くなりますね」

 不憫そうな視線がテッドに向けられる。

「ちゃうわっ!? なに勝手に人を赤点扱いしてんだよっ!!」
「……違うのか?」
「うむ。補習のメンバーではなかったな。そして俺も、一応赤点ではないぞ」
「ふーん」
「よかったですねっ、メルン先輩、レザン先輩っ!」
「うむ」
「おう! それでさ、お前ら休みなにして過ごすん?」

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