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しおりを挟む「ふふっ、久し振りにネイトと会えたのが嬉しかったんですよね? リヒャルト君は」
「はい・・・」
「僕もその気持ちはわかりますよ。好きな人に会えたら嬉しいですからね」
にこにこと優しい顔でリヒャルト君を見下ろすセディー。
「でも、今のはネイトだったから大丈夫でしたけど、女の人やお年寄りの人にいきなり飛び付いたりしては駄目ですよ。びっくりして、転んでしまうかもしれませんからね。リヒャルト君は、誰かに怪我をさせたいワケではないでしょう?」
「はい。きをつけます・・・ケイトねえさまにも、とびついたらだめですか?」
頷いたリヒャルト君が、少し心配そうな顔でケイトさんを見上げる。
「っ!? そんなことはありません! リヒャルトならいつでも大歓迎ですっ!!」
すぐさま否定して、ぎゅっとリヒャルト君を抱き締めるケイトさん。相変わらず、リヒャルト君ラブのようです。でも・・・
「いや、ケイトさん。それは駄目ですって」
「なぜです?」
ほんの少し、不満そうにわたしを見上げる顔。ケイトさんのこういう表情は珍しいですね。
「それは、リヒャルト君が男の子だからですよ。今はまだ小さいですが、そのうち力も強くなります。そしたら、いつかはきっとケイトさんもリヒャルト君のことを受け止めることが難しくなりますから。そして、もしもケイトさんが怪我をしてしまったら、それこそリヒャルト君が悲しむことになります」
「そう、ですか……」
「ええ。男の子の突進を甘く見てはいけないんです。七、八歳くらいにもなると、男の子の本気の突進は、成人男性でもたじろぐ程の威力があるんです」
昔、トルナードさんがロイに体当たりをされて、不幸にもそれがいい感じに鳩尾に入ったらしく、「げふっ!」となっていた。
大人の男でもそうなるのだから、女性では受け止めることも難しいだろう。
「なので、リヒャルト君」
「はい」
「ケイトさんのことが大好きなら、いきなり飛び付いたりするのではなくて、ちゃんと声を掛けてから、ケイトさんに優しく抱き付いてあげてください」
「わかりました! だいすきです、ケイトねえさまっ!」
「わたしもですっ、リヒャルトっ!!」
と、ぎゅ~っとハグをし合う姉弟。
「わぁっ! ケイト様は、弟さんとすっごく仲良しさんなんですねっ♪」
「うむ・・・いつものセルビア部長とは雰囲気が違うな」
驚いたようなアルトの声と、どこかぽかんとしたような低い声がした。どうやら到着したらしい。
「あら、これは失礼を致しました。こちら、賢くて可愛いわたしの自慢の弟のリヒャルト・セルビアです。リヒャルト。あちらの大きな方のお兄様がネイサン様の同級生のレザン・クロフト様。そして、そのお隣のお兄様がネイサン様達の一つ後輩で、ルリアさんの婚約者様のエリオット・フィールズ様です」
さっと立ち上がり、頬は赤いもののスッといつもの凛とした表情に戻して、リヒャルト君の紹介。そしてレザンとエリオットの二人を紹介するケイトさん。
「リヒャルト・セルビアです。よろしくおねがいします」
「うむ。レザン・クロフトです。レザンと呼んでください」
「エリオットです。えっと、僕のことはエリオットか、エルでいいですよ?」
「レザンにいさまとエルにいさま、ですね」
「れ、レザン先輩っ、僕のことエル兄様ってっ!!」
「うむ。俺も末っ子だからな・・・初めて兄と呼び掛けられたぞ。なにやら面映ゆいな」
嬉しそうな顔のエリオットに、感慨深そうな顔で頷くレザン。
リヒャルト君って、実は案外人たらしなのかもしれない。
「それで、お二人はどうしてここへ?」
「あ、セディック様に呼ばれて来ました」
「うむ」
「わたしもセディーに頼まれて来たんですけど、今日はなにをする予定なのでしょうか?」
「あら、セディック様はお話になっていないのですか? 本日の授業は紳士淑女の嗜み。ダンスレッスンです」
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