虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「はいっ!」

 と、やる気のあるエリオットの意志を尊重して、わたしは横からちょこちょこ手を出していたら・・・

「・・・ハウウェル。手を抜き過ぎだっ!」

 低い声が不機嫌そうに言い、マズい! と思ったときには、

「うぐっ!?」

 ガツンっ!! と、重い一撃。腕から肩に走る衝撃。どうにか受け止めた木剣が、ギシリと軋む。

「っ!? 手加減しろって言っただろっ!?」

 危うく肩が抜けるかと思った。けど、押し返しながら・・・

「エル!」
「はいっ、失礼します!」

 鋭く呼ぶと、タッ! と踏み込む足音がして、次いでぐっと肩に掛かる重み。

「フィールズが飛んだっ!?」

 驚くテッドの声。

「ハアっ!!」

 わたしを踏み台にして跳んだエリオットが、空中からレザン切り掛かる。

「っ!?」

 ガンっ! と、わたしの剣を弾き、慌てて上空からの剣を受け止めるレザン。バキッと、木剣が半ばから折れ、クルクルと回って飛んで行く。

 さっきの一撃で軋む音がしていたし。二度の強い衝撃にたなかったようだ。そしてわたしは、レザンのがら空きになった首へと、木剣を突き付ける。

「・・・ふむ。参った」

 両手を挙げての宣言に、

「ふぇ? え? レザン先輩に、勝った……?」

 ハァハァと息を乱し、きょとんとした顔で瞬くエリオット。

「うむ。見事に負けたな。・・・狙っていたのか? ハウウェル」
「狙っていたって言うか・・・まぁ、二人以上で組まないとできない戦法だよね」

 と、木剣を下ろす。

 さっきの、「次やったら、投げるから。飛べ・・」と言ったのは、次の鍔迫つばぜり合いでは飛べという意図での言葉だったけど、ちゃんと意志疎通ができていたようだ。

「ま、エリオットに伝わってなかったらは意味なかったけど」
「えっと、ハウウェル先輩が飛べ・・って言ってたので、呼ばれたら反応できるようにしておこうと思いましたっ!」
「そうか。見事だったぞ、フィールズ」
「えへへ」

 ぽんぽんと頭を撫でられて嬉しそうなエリオット。

「えええっ!? ちょっ、なに今のっ!? いいのかっ!? ありなのかっ!?」
「うん? いいのではないか」

 鷹揚に頷くレザン。

「マジかっ!? なんかちょっと卑怯というか、かっこよかった気もするけど・・・」

 まぁ、テッドの釈然としない気持ちもわかりはする。正々堂々とした対戦というより、今のは奇襲に近い戦法だ。けど、こうでもしないとレザンには勝てない。

 というか、ここまでしても、わたし達ではレザンには届かないのが実情と言ったところか。

 今のは、レザンが素直に負けを認めたけど、もしも木剣が折れなかったら? もしくは、折れてもそのままレザンが戦う意志を見せていたら? そうだったなら、わたしとエリオットが勝てる見込みは、かなり少ないだろう。

「つか、まさかフィールズがハウウェルを踏むとは・・・あ、だからお団子にしたのか。なるほどなー。あれで髪垂れてたら、そりゃ絶対痛いわ」
「まあね」

 首が仰け反る程度じゃ済まないだろう。わたしはまだ、ハゲたくないっ!!

「ハウウェルの本気か~。なんかこう、腹黒さの出てる作戦だよなー」

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