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「あら~、ようこそいらっしゃいませ~。ネヴィラ様」

 間延びしたふわふわした声。

「アナスタシア様。本日はお招きありがとうございます」
「うふふっ、こちらこそ、ネヴィラ様ご夫妻にいらして頂いて嬉しいですわ~」

 きらきらとした瞳で少女のように頬を染め、おばあ様と挨拶を交わすターシャおば様。

 おばあ様を好きなご婦人方はおばあ様を前にすると、きらきらとした瞳で……こう言っちゃ失礼かもしれないけど、そのお歳よりも随分と若く見えるときがある。

 まるで……そう、あれだ。ケイトさんに憧れの眼差しを向ける女子生徒達の顔とよく似ている。

「お孫様方のご婚約、おめでとうございます」
「うふふ、こちらこそ~。エル君とレイラちゃんの婚約の見直しはネイサン様のお陰ですもの~。フィールズ家としても、いい形にまとまったと思いますので。特に、ルリアちゃんはネイサン様に感謝しておりますのよ~」
「うちのネイトに、ですか?」
「そうですわ~。見てお判りでしょう~?」

 と、嬉しそうな顔でエリオットの手を握り、セディーとケイトさんと話をしているルリア嬢を示すターシャおば様。

「そのようですわね」

 微笑ましいという顔で頷くおばあ様。

 まぁ、ルリア嬢に外堀から埋められ、しっかりと捕まえられたであろうエリオット本人だけが、なにも判っていなさそうではあるけど。

「ネイサン様が、エル君のことでレイラちゃんを諭して頂いたお陰で、あの人も焦ったみたいで。うふふ、やっぱり血は争えませんのね~。さすが、ネヴィラ様のお孫様ですわ~」

 にこにことわたしを見詰めるターシャおば様。

「いえ、わたしは大したことを言ったつもりはありませんので」
「うふふ、ネイサン様は謙虚でいらっしゃるのね~」
「謙虚と仰るなら、わたしの言葉を真摯に受け止めたフィールズ嬢だと思いますが」

 家の問題で婚約者が変わることはあると思うけど・・・今回のエリオットとルリア嬢の婚約は、下手をすると妹に婚約者と家を取られた令嬢という風にも捉えられ兼ねないフィールズ嬢は、大丈夫なのでしょうか? わたしの言葉が原因なら、少し気になる。

「うふふ、レイラちゃんも素直ないい子ですもの~。大丈夫ですわ~。フィールズ家と縁を結びたい家は多いのですよ~」
「そうですか……」
「ええ。レイラちゃんのことは大丈夫ですわ~」

 にこにこと告げられ、少し安心した。

「新しい縁談は、わたくしが確りと吟味して決める予定ですもの~」
「アナスタシア様がそう仰るなら安心ですね」

 ほっとしたようにおばあ様が言う。やっぱり、おばあ様もフィールズ嬢のことを心配していたみたいです。

「はい。張り切りますわ~」

 なんてことを話していると、

 「…… ハウウェル せんぱい、 たすけて ください ……」

 情けない声と表情のエリオットに服の裾をぎゅっと握られた。

「エリオット?」

 「ねっ、 ねえさま たちがっ ……」

 ぐしゃりと泣き出す寸前のような顔。わたしの服を掴む震える手。その視線の先には、強張った顔でエリオットを見詰める女性が三人。こちらへ向かっていた。

 まぁ、フィールズ家の慶事なんだから、エリオットの姉君達が参加するのは当然のことだよねぇ。

「・・・よし、がんばれ」
「そ、そんなっ、助けてくれないんですかっ!?」

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