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「おばあ様って、言動はふわふわしていますけど、なにげに甘くないんですもの」
「あら~、そうだったかしら~?」
「ええ。そういうワケで、エル兄様」

 キッと、エリオットに向き直るルリア嬢。

「っ! な、なに? ルリアちゃん」
「わたくしが、公爵位を継ぎます」
「え? で、でもっ」
「エル兄様には向いてません。それに、エル兄様がレイラ姉様と結婚しても、絶対に幸せになれるとは思えません。お祖父様も、お二人の婚約を見直すとおっしゃっています」
「それは・・・」

 エリオットが言葉に詰まると、

「そうしたら、エル兄様はルリが守ってあげますから安心してくださいね?」

 慈愛の笑みが返される。

「ふぇ?」
「エル兄様の婚約者を、レイラ姉様からルリに代えてもらいます。そしたら、女性が苦手なエル兄様も安心でしょう? エル兄様、ルリのことだけは苦手じゃないですから」
「ええっ!? ちょっ、な、なに言ってるのルリアちゃんっ!?」
「大丈夫です。もしエル兄様がずっと女性が苦手なままでも、ルリが貰ってあげます♪」

 あぁ……そっか。今の笑顔で、なんかわかった気がする。ルリア嬢は、本気でエリオットを守るつもりだ。きっと、公爵を継ぐという彼女の決意も、エリオットの為に決めたことなのだろう。

 なんか、女の子ってすごいなぁ……

 まぁ、あれだ。公爵位も継いで、そして他の女の子からも守ってくれるというなら、へたれなエリオットにはお似合いなのかもしれない。うん……多分、囲い込みが着々と進んでるから、きっともう逃げられなさそうだけど。

 そういう風に思っていると……

「うふふっ、エル君がルリアちゃんに貰われちゃうなら、レイラちゃんがフリーになっちゃうのね~。そうですわ~、ネイサン様。もし宜しければ、うちのレイラちゃんを貰って頂けます~?」

 にこにことフィールズ公爵夫人がわたしへ言った。

「え?」
「フィールズ公爵夫人? ネイトには……弟には、既に婚約者が決まっているのですが? お戯れも程々にお願いしますね?」

 思わぬ言葉に驚くわたしに代わり、にこにこと笑みを深めたセディーが応える。

 か、顔は笑顔のままだけど、セディーがかなり怒っているっ!?

「うふふ、ちょっと言ってみただけですわ~。ネイサン様には、年下のお可愛らしい婚約者さんがいて、溺愛していることも知っていますもの~」
「知っていて、聞いたと? 少々悪巫山戯わるふざけが過ぎるのではありませんか? フィールズ・・・・・公爵夫人・・・・

 言外に、立場を考えて発言をしてくださいね? と言っている気がする。相変わらず、目は全く笑ってない笑顔なんだけど。

「うふふ、万が一、レイラちゃんがネイサン様と結婚すれば、ネヴィラ様とご親戚になれると思いまして~」
「……そんなにうちのおばあ様がお好きですか。ターシャおば様は」

 呆れたような顔に変わるセディー。どうやら、脱力してしまったようだ。

 まぁ、彼女の人徳とでも言うべきか、フィールズ公爵夫人……ターシャおば様を相手にして、怒りを持続するのは難しいんですよねぇ。いつの間にか、彼女のペースに巻き込まれてしまうというか……

「うふふ、そうですわね~? あなた方がお生まれになったときには、お友達同士で『ネヴィラ様のお孫様争奪戦』が繰り広げられるくらいには、皆様ネヴィラ様のことがお好きですわよ~」
「なんですか、その不穏な争奪戦とやらは」

 怪訝そうに眉をひそめるセディー。

「セディック様がお生まれになった当初は、誰の家からセディック様の婚約者を出すかと、お友達同士で集まって、お腹がたぷたぷになるまでお茶会で熾烈なお話し・・・合い・・が繰り広げられたものよ~。セディック様の体調を鑑みて、一旦休戦となったのですけど~。それが、『第一次ネヴィラ様のお孫様争奪戦』の顛末ですわ~」
「・・・第一次?」

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