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しおりを挟む「る、ルリアちゃんっ!? い、いきなりなにを言ってるのっ!?」
「ついでに、レイラ姉様にも公爵は荷が重いと思っているのです。今から必死になって、十年くらいお勉強を頑張ればどうにかなるかもしれませんけど」
「あらあら~、レイラちゃんが十年もお勉強を頑張れるかしら~?」
「なので、おばあ様。フィールズ公爵位は、わたくしが継ごうと思うのです」
「ルリアちゃん? 自分がなにを言ってるのか、判ってるの? 女の子が公爵なんて・・・」
おろおろと顔色をなくすエリオットに、
「当然です。レイラ姉様やミラ姉様達になにも言えないで、泣きそうな顔ですぐ逃げるエル兄様に、公爵は向いていません。そして、そのことに対して疑問も抱かないレイラ姉様が、公爵や公爵夫人に向いているとも思えません。お祖父様は身内に甘い方ですから、今回のようにレイラ姉様が、よそのお兄様方へ迷惑をお掛けしてしまうまで楽観していたのです。なので、客観的に考えた結果、今からでも十分教育が間に合うわたくしが、公爵位を継ごうと思った次第なのですわ」
ルリア嬢の決意表明。
「……成る程。それで、いい機会ですか」
セディーは、そんな彼女をじっと見据える。
「はい。お兄様の方のハウウェル様の婚約様は、伯爵位を継ぐ予定だったお姉様だと伺っています。どうか、わたくしにお兄様のハウウェル様の婚約者様を紹介して頂けないでしょうか?」
胸の前で手を組み、祈るようにセディーを見上げるルリア嬢。そこへ、
「セディック様の婚約者は、セルビア伯爵令嬢のケイト様でしたわね~」
にこにこと口を開くフィールズ公爵夫人。
「ええ」
確認するような言葉に頷くセディー。
「確か、セルビア伯爵令嬢は馬にも乗れて、剣も扱える上、成績優秀、品行方正な才女として評判のお嬢さん。でしたわね~」
「はい」
「そんなお嬢さんでも……いいえ、そういう評価を得るまでに、セルビア伯爵令嬢は、大変な苦労をなさったと思うのよ~」
次いで、にこにことルリア嬢へ向き直るフィールズ公爵夫人。
「そうですね。僕も彼女と知り合ったのは数年前ですが……それでも、彼女の努力と苦労は大変なものだったことは察せられます。男を抑えて爵位を継ぐようにと育てられた女性は……自分は爵位を継ぐに相応しいと周囲へ優秀さを示し続けなければいけませんから」
セディーが言い募る。
「ケイトさんは、同年代の男には妬まれて疎まれ、敬遠されていました。彼女はそんなことは誰にも話していないと思いますが、侮辱や嘲笑、暴言や嫌がらせも日常的に受けていたことでしょう。ときには言葉や態度だけでなく、物理的に彼女を傷付けようとした輩もいた筈です。同年代の女性でさえ、彼女の味方とは限らない。それが、ケイトさんの日常だった筈です。それら全てを跳ね返すだけの強さを、ケイトさんは持たなければいけませんでした。伯爵位を継ぐ予定だったケイトさんでも、これだけの経験をしている筈です。公爵位ともなれば、それ以上に壮絶になることは想像に難くないかと。フィールズ嬢には、その覚悟がおありでしょうか? 中途半端な覚悟で爵位を継ぐと仰っているのでしたら、やめておいた方が宜しいかと思いますよ? 可愛らしいお嬢さん」
セディーはにこりと貴族的な薄い笑みを浮かべ、ルリア嬢を諭すように、けれど侮るような言葉をルリア嬢に掛ける。
「エリオット君に任せておけば、あなたがそんなに大変な苦労をすることはないのですから」
「わたくしは、遊びや生半可な覚悟でこのような宣言をしているワケではありませんわ。ご心配ありがとうございます、ハウウェル様」
にこり、と優雅に微笑んでみせるルリア嬢。
「そうですか・・・僕のことは、セディックでいいですよ。ハウウェルでは、ネイトと紛らわしいですからね。ケイトさんへの紹介は、彼女が了承すれば、となりますが宜しいでしょうか? ルリアさん」
「ありがとうございます。セディック様」
十以上も年の離れた相手にも怯まない胆力。そして、見せ掛けとは言え外見を侮られたことを怒ることなく、セディーの言葉の意図を悟れる賢さ。
なんというか・・・普通に、エリオットよりもこの子の方が公爵に向いている気がして来た。こんな小さい子に色々と負け過ぎじゃないかな? エリオットは。
「ですので、おばあ様」
「なにかしら~?」
「お祖父様を説得するのに協力してくださいませ」
「ルリアちゃんの覚悟はわかりましたわ~。うふふ、ここでわたくしにあの人を説得してほしいと言ったのなら、断っていましたけどね~」
にこにこと間延びした口調で、けれど少々手厳しいことを告げるフィールズ公爵夫人。
「ありがとうございます、おばあ様。はぁ~……緊張しましたわ~」
安堵からか、落ちる深い溜め息。
「おばあ様って、言動はふわふわしていますけど、実はそんなに甘くないんですもの」
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