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「ど、どうしてここにっ!!」
「あら~、見付かっちゃったわ~。お久し振りですわね~。セディック様、ネイサン様」

 間延びしたような、ふわふわとした話し方のご婦人がわたし達へ挨拶しました。

 ・・・まぁ、事前情報があったので、一応ある程度の予想はしていましたけどねぇ?

「……ええ。お久し振りです」
「うふふっ、驚かせてしまったかしら~。そう堅くならなくてもいいんですのよ~? 今日は、エル君がハウウェル様方をご招待するって言うのでわたくし、お茶の用意を致しましたの~。美味しく淹れられていたら嬉しいのですけど~」
「なんでおばあ様がこんなところにっ!? 今日は準備だけして、おうちの中でこっそりとうかがってるって言ってたじゃないですかっ?」

 おかしいな? 伯爵家に来た筈なのに、実は公爵夫人に手ずからお茶を淹れて頂いていたみたいです。というか、公爵夫人にこっそり覗われているお茶会っていうのも、なんだかとっても気まずいんですけどね?

 現に、テッドとリールもびっくりして固まってるし。セディーもライアンさんも、顔にはあんまり出さないようにしているようだけど、若干戸惑っている気がする。公爵夫人の登場に全く動じていないのは、レザンくらいなもの。相変わらず、面の皮が厚い奴だな?

「あら~、ちゃんとこっそりしていましたよ~? さっきまでは、ですけど~」

 イタズラを成功させたという風な、ワクワクとした楽しげな顔で微笑む妙齢の可愛らしいご婦人はエリオットのおばあ様で、フィールズ公爵夫人。二人が並ぶと顔の系統が似ていて、明確な血筋を感じますねぇ。

 ええ、まぁ……こっそりはしていましたね。エリオットの死角となる後ろのテーブルで、公爵夫人としての外出着としては控えめな装いで、にこにこと楽しげにお茶を淹れていたのを見たときには、かなりびっくりしましたとも。

 さっきはいなかったのに、いつの間に庭に出て来たんでしょうか? それに、わたし達からではなく、エリオットから隠れてどうするんですかね……? まぁ、イタズラ? は成功したみたいですが。

「でも、わたくし、どうしてもハウウェル様方にご挨拶したかったんですもの~。ネヴィラ様はお元気かしら~?」
「ええ。おばあ様はお元気です」

 にこりとセディーが応える。

「うふふ、それじゃあ今度、うちでお茶しましょうね~。とネヴィラ様へ伝えてもらえるかしら~」
「はい。承りました」
「うふふ、ネイサン様は、お若い頃のネヴィラ様に益々似て来られて、麗しいですわ~。ネヴィラ様が殿方でいらしたら、きっとこの様な感じですのね~」

 にこにことわたしを見詰める公爵夫人。

「お、おばあ様っ、ハウウェル先輩に失礼ですよっ!?」
「あら~、ごめんなさいね~」
「いえ……」

 おばあ様の年代のご婦人方に、ネヴィラ様おばあ様にそっくりだと言われるのは慣れている。

「本日のお茶会はフィールズ公爵夫人がご用意してくださったとのことで。お茶もお菓子も大変美味しく頂いています。ありがとうございます」
「あら~、ネイサン様。以前のようにターシャおば様とは呼んで頂けないのかしら~?」
「っ!」

 以前……というか、幼少期にお会いした頃にはこの方がフィールズ公爵夫人だなんて全く認識していなくて、おばあ様のご友人だとしか思っていなかった。

 舌っ足らずだった小さい頃にはアナスタシア・フィールズ公爵夫人のことを、『アナスタシア様』とそのお名前を呼ぶことが難しくて、「うふふ、アナスタシアって長いから小さい子には少し難いものね~。そうね~? ターシャなら呼べるかしら~。ターシャおば様よ~?」とそう言われて、なにも疑問に思うこと無く『ターシャおば様』とそう呼んでいた。

 隣国へ……クロシェン家へ預けられる前には、愛称で呼ぶことを許してもらえるくらいに、フィールズ公爵夫人には可愛がられていた。

 さすがに、大きくなって分別が付くようになってからはフィールズ公爵夫人を『ターシャおば様』なんて呼んだことは無いのに。ここでそう来るとは・・・

「ターシャおば様・・・、というのは少々図々しいのではありませんか? 確かターシャおばあ様・・・・は、ハウウェル侯爵夫人よりも年上でいらしたはずではありませんこと?」


__________


 エリオットのおばあ様は天然さん。(笑)

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