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しおりを挟むお昼に食堂で、覆面ストール(食べるときには外させる)の周囲のぽっかりと空いた席に着いて昼食を食べているときのことだった。
「お前らっ!?」
顔を真っ赤にさせた、どこか見覚えのある男子生徒が怒鳴りながらわたし達のいる席へとやって来た。
「・・・おお、先輩ではありませんか。その後、体調の方は如何でしょうか? 少し窶れたように見えますが、病み上がりなのであまり無理はされないようお気を付けください」
と、レザンが応じたので、耐久レース最中にレザンにお姫様先輩抱っこで運ばれて途中棄権した先輩か、と思い至った。
レザンの言葉通り、あのときよりも窶れた感じなので、ちょっと一瞬わからなかった。
うん。別に先輩の顔を忘れていたワケじゃない。耐久レースは想定通りに勝ったし。
先輩の体調不良はこんなに長引くとは思っていなかったけど・・・お見舞いも行ったし、あとは部員達の前で謝ってくれれば、何度も女顔呼ばわりされたことについては不問にしてもいいと思っていたところだ。
それなのに、なにしに来たんだろ?
そして、なぜか「キャー」と悲鳴のような声がしたような・・・? そっちの方を見ると、口許を押さえてこちらの方を凝視している女子生徒達がいた。頬を染めて、目が潤んでいるような気がする。先輩の怒鳴り声が怖かったのかもしれない。
「あれが、このあいだ男子生徒にお姫様抱っこされて運ばれたという男子の先輩よ」
「あの方が、お姫様抱っこの……」
「あの方がクロフト様に絡んでいるわよっ」
なんて潜めた声と、クスクス笑っているような声が聞こえているのは・・・
ああ、もしかしてあれか。彼女達は怖いとかじゃなくて、笑いを堪えているのかもしれない。まぁ、淑女が人前で爆笑なんてしたら、はしたないって顔を顰められちゃうもんね。笑うのを堪えると、顔は赤くなるし、涙だって出ることもある。でも、面白いものは見たい、という感じかな?
「お前らのせいで俺はとんだ笑い者じゃないかっ!? どう責任を取ってくれるっ!!」
女子生徒達の声を拾ったのか、益々顔を赤くして激昂する先輩。
「まあっ! 責任ですってよ!」
「ど、どう責任を取るのっ?」
「クロフト様とハウウェル様の間にあの方がっ……」
女子生徒達が、なんだかとっても楽しそうだ。
「責任と言われても・・・そもそも、耐久レースを体調不良で途中棄権したのは先輩の方ですよね? わたしはちゃんと、時間一杯走り切ったのですが? それに、体調の方が良くなったのであれば、約束の方を果たして頂きたいのですが? まさか、忘れている、なんてことはありませんよね? 先輩が勝ったらわたしは乗馬クラブの副部長を降りる。そして、わたしが勝ったら先輩はセルビア部長と部員達へ謝って頂く、と。そういう約束をしていたと思うのですが? 部員と、そして顧問の前で約束したことを覚えていない筈はありませんよね?」
にっこりと微笑みながら言うと、
「っ!!」
言葉に詰まる先輩。
そして上がる、「キャー」という高い声。う~ん……そんなに面白い見世物なのかな?
「ああ、それとも……授業には出られるけど、まだ乗馬クラブの方へ顔を出すのは体調的に厳しいのでしょうか? それなら、先輩の体調回復を待って後日、部員達を召集しますので。連絡をください」
「っ……もういいっ!!」
と、先輩は怒鳴って去って行った。
「……えっと、なんだったんですか? 今の人」
きょとんと首を傾げるエリオット。
「さあ?」
「うむ。なにをしに来たのだろうか?」
「ハウウェル先輩に負けたのって、あの人の体調不良が原因なら、自業自得なんじゃないですか。それを、負けを認めないで文句を言いに来るだなんて、随分と男らしくない人ですねっ」
「っぷはっ!? ハハハハハハっ!!」
「え? どうしたんですか? メルン先輩」
「い、いや、まさかフィールズに男らしくないって言われるとはっ……ぷっ……」
「……確かにな」
吹き出すテッドに、くくっと笑うリール。
「??」
まぁ、よくレザンの背中に隠れたり泣いたりしているエリオットに、「男らしくない」って言われるとねぇ?
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰
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