365 / 673
320
しおりを挟む午前の授業が終わって食堂に向かうと、ストールで顔をぐるぐる巻きにした怪しい奴がいた。
当然というか……昼食時というのに、ソイツの座っているテーブルはがら空きだ。
よし、見なかったことにして別の席に……
「あ、ハウウェル先輩っ! レザン先輩もこっちですこっちっ!」
ひらひらと手が振られ、アルトの声が響く。名指し、されてしまった。あれの知り合いかよ? という周囲からの視線が・・・
「うっわ、めっちゃ怪しい奴じゃん」
「ふむ。席取りには便利かもしれんな」
「……あれと同じ席に着くのか?」
ケラケラ笑うテッド。妙なことを言い出すレザン。嫌そうに顔を顰めるリール。
まぁ、わたしもあれと一緒は嫌だな。とは思いつつ、名指しもされたし、他の空いてる席を探すのも面倒なので怪しい奴のいる席に着く。
「なにしてんの? 君」
「はい? えっと、先輩達とお昼ごはんをご一緒したいなって思って・・・ダメ、でしたか? も、もしかして僕とごはんは嫌でしたかっ!?」
「嫌っつーか、お前それ、どうやって飯食うん?」
「あ、そういうことですか。それなら大丈夫ですっ。こうやって、口許だけずらせば問題ありませんっ」
くいっと顔に巻かれたストールの下半分がずらされ、エリオットの口許だけが露わになる。
「・・・まぁ、君が顔を晒したくないなら、それでもいいけどね。早く食べなよ」
「? はい」
と、昼食を食べ始めたはいい。
「・・・」
ちゃんと見えていないのか、口許にはソースが付いているし。ぽろぽろとスプーンから零れる食べ物。落ちるパンくず。そして、垂れたストールが皿に入りそうになっている。
もう、我慢できない。
「お前、それ取れ」
「ふぇ?」
「だから、そのストール。今すぐ頭から外せ?」
「な、い、いきなりどうしたんですかっ!? さっきはそんなこと言ってなかったじゃないですかっ!?」
「食べ方が汚くてイライラする。食べ物零すな、勿体無い。それに、垂れたストールが皿に入りそうなんだよ。汚れてもいいの?」
エリオットの私物なら、多分そこそこの値段の代物だと思うし。
「うむ。確かに、食べ物を粗末にするのはやめた方がいいぞ。フィールズ」
「れ、レザン先輩までっ……」
「ショック受ける前に、テーブルを見てみたら?」
「……あ」
下を向いてテーブルに零れる食べ物に気付いたのか、エリオットの口が閉じる。そしてその途端、ストールがお皿にダイブした。
「ああっ!?」
汚れたストールの端っこを握って慌てた声を上げたエリオットに、
「だから言ったのに。全く、君は幾つの子だよ? ほら、拭きなよ」
ハンカチを渡す。
「ぁぅ~……すみません」
「そう言や、今思ったんだけど、お前先週はどうしてたん? こんな怪しいストール男、先週は見なかったぞ?」
そう言えば、先週……というか、新学期が始まってから、こないだまでエリオットの姿を見たことがない。同じ寮にいた筈なのに。
「ああ、先週は僕、食堂に来てませんから」
「……食事はどうしていたんだ? 寮の食堂でも見掛けなかったぞ」
「えっと、購買で食べ物を買って、寮の部屋で食べたり、外でこそこそしながら食べてました。やっぱり、ごはんはあったかい方が美味しいですねっ」
「ヤだ、不憫な子っ」
__________
タイトルがアレな感じの短編、完結しました。
女神の化身として召喚された主人公が、その国の傲慢国王に「妻にしてやるから子を産め」と言われて、ブチギレてその国にざまぁする話です。
気になった方は、上の『月白ヤトヒコ』のリンクからどうぞ。
主人公はめっちゃ口が悪いです。(笑)
20
お気に入りに追加
745
あなたにおすすめの小説


【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる