虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 午前の授業が終わって食堂に向かうと、ストールで顔をぐるぐる巻きにした怪しい奴がいた。

 当然というか……昼食時というのに、ソイツの座っているテーブルはがら空きだ。

 よし、見なかったことにして別の席に……

「あ、ハウウェル先輩っ! レザン先輩もこっちですこっちっ!」

 ひらひらと手が振られ、アルトの声が響く。名指し、されてしまった。あれの知り合いかよ? という周囲からの視線が・・・

「うっわ、めっちゃ怪しい奴じゃん」
「ふむ。席取りには便利かもしれんな」
「……あれと同じ席に着くのか?」

 ケラケラ笑うテッド。妙なことを言い出すレザン。嫌そうに顔をしかめるリール。

 まぁ、わたしもあれと一緒は嫌だな。とは思いつつ、名指しもされたし、他の空いてる席を探すのも面倒なので怪しい奴のいる席に着く。

「なにしてんの? 君」
「はい? えっと、先輩達とお昼ごはんをご一緒したいなって思って・・・ダメ、でしたか? も、もしかして僕とごはんは嫌でしたかっ!?」
「嫌っつーか、お前それ、どうやって飯食うん?」
「あ、そういうことですか。それなら大丈夫ですっ。こうやって、口許だけずらせば問題ありませんっ」

 くいっと顔に巻かれたストールの下半分がずらされ、エリオットの口許だけが露わになる。

「・・・まぁ、君が顔を晒したくないなら、それでもいいけどね。早く食べなよ」
「? はい」

 と、昼食を食べ始めたはいい。

「・・・」

 ちゃんと見えていないのか、口許にはソースが付いているし。ぽろぽろとスプーンから零れる食べ物。落ちるパンくず。そして、垂れたストールが皿に入りそうになっている。

 もう、我慢できない。

「お前、それ取れ」
「ふぇ?」
「だから、そのストール。今すぐ頭から外せ?」
「な、い、いきなりどうしたんですかっ!? さっきはそんなこと言ってなかったじゃないですかっ!?」
「食べ方が汚くてイライラする。食べ物零すな、勿体無い。それに、垂れたストールが皿に入りそうなんだよ。汚れてもいいの?」

 エリオットの私物なら、多分そこそこの値段の代物だと思うし。

「うむ。確かに、食べ物を粗末にするのはやめた方がいいぞ。フィールズ」
「れ、レザン先輩までっ……」
「ショック受ける前に、テーブルを見てみたら?」
「……あ」

 下を向いてテーブルに零れる食べ物に気付いたのか、エリオットの口が閉じる。そしてその途端、ストールがお皿にダイブした。

「ああっ!?」

 汚れたストールの端っこを握って慌てた声を上げたエリオットに、

「だから言ったのに。全く、君は幾つの子だよ? ほら、拭きなよ」

 ハンカチを渡す。

「ぁぅ~……すみません」
「そう言や、今思ったんだけど、お前先週はどうしてたん? こんな怪しいストール男、先週は見なかったぞ?」

 そう言えば、先週……というか、新学期が始まってから、こないだまでエリオットの姿を見たことがない。同じ寮にいた筈なのに。

「ああ、先週は僕、食堂に来てませんから」
「……食事はどうしていたんだ? 寮の食堂でも見掛けなかったぞ」
「えっと、購買で食べ物を買って、寮の部屋で食べたり、外でこそこそしながら食べてました。やっぱり、ごはんはあったかい方が美味しいですねっ」
「ヤだ、不憫な子っ」

__________


 タイトルがアレな感じの短編、完結しました。

 女神の化身として召喚された主人公が、その国の傲慢国王に「妻にしてやるから子を産め」と言われて、ブチギレてその国にざまぁする話です。

 気になった方は、上の『月白ヤトヒコ』のリンクからどうぞ。

 主人公はめっちゃ口が悪いです。(笑)

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