虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
360 / 673

315

しおりを挟む



「ありがとうございましたっ、ハウウェル先輩!」
「はいはい」

 ガシっと抱き付いて来ようとするエリオットの顔面を、片手でガッと掴んで止める。

「うぷっ!?」
「離れろ?」
「美少女な顔にアイアンクローかましたっ!?」
「顔関係ある?」
「可愛い顔だろ! 手加減してやれよ!」
「なにそれ? まだ脇腹痛いんだけど」
「あう~、はい。すみません・・・ハウウェル先輩のお陰で助かりました。危うく、昨日みたいにレイラから逃げ回らないといけないところでしたから」

 残念そうな顔で下がるエリオット。

「は? なにお前、昨日もあの婚約者さんから逃げてたワケ?」
「はい。レイラは普通クラスなので、授業がある日は一緒にならないからいいんですけど・・・昨日は寮の方に来て、呼び出しをされて・・・玄関の前にいたレイラをダッシュで振り切って、何時間も学園中をうろうろしていたら、綺麗な顔をした先輩が乗馬対決をしているらしいって話を聞いて、馬場に行ってみたらハウウェル先輩とレザン先輩に会えました!」

 そういう経緯があったのか・・・

「お前なぁ・・・婚約者っつーか、女の子を蔑ろにするとは何様だこの野郎っ!? と、言いたいところだが・・・あれ、付いてったらかなりマズいやつだったからなー。ま、ドンマイ」

 いつもならもっと食って掛かるのに。やっぱりテッドも、フィールズ嬢のエリオットに対する仕打ちを可哀想に思ったようだ。

「……女子というものが、あんなにも恐ろしいものとは」

 身震いするような声に、

「そうですよねっ!! わかってくれますかグレイ先輩っ!?」

 パッとリールの手を取ろうとするエリオット。

「っ!? よ、寄るなフィールズっ!?」

 リールは大袈裟に後ろへ下がった。

「そ、そんな、ひどいですっ……そんなに僕のこと嫌いですか?」
「ぁ~、リールは女の子苦手だかんなー」
「ぼ、僕は女の子じゃないですよっ!!」
「そ、それは知ってる」

 赤い顔で、エリオットから目を背けるリール。

「ならどうしてですかっ?」
「それはリールが、美人さんな顔が苦手だからだ。ちなみ、最近慣れて来たハウウェルにも最初こんな感じだったからなー。あんま気にすんなって」
「……僕、ストール巻いた方がいいですか?」

 と、どこから取り出したのかエリオットがストールに目を落とす。昨日のやつとは違うストールだ。さすがに、昨日のストールは涙や鼻水でべちゃべちゃだったからな。洗濯中……だと思いたい。

「い、いや、別に隠さなくていい。俺がフィールズの顔を直視しなければいいだけのことだからな」

 エリオットから顔を逸らして答えるリール。

「ま、そのうち慣れるだろ」
「そうなんですか?」
「うむ。いつの間にか、ハウウェルの顔にも慣れているからな」
「わかりました……」
「さて、エリオット」
「はい、なんですか? ハウウェル先輩」
「フィールズ公に報告ね」
「え? 本当にお祖父様にご報告するんですか?」

 不思議そうに瞬く大きな瞳。

「当たり前でしょ。君は、どうでもいいことはすぐ報告しようとするクセに、どうしてかこういう大事なことは報告したがらないんだから。全く……」
「あれ、脅しじゃなくてマジだったのかよっ!」
「マジだよ。あのね、フィールズ嬢の言動は、かなりのスキャンダルに発展するところだったんだよ? さっきも言ったでしょ。あのまま付いて行ってたら、エリオットかフィールズ嬢は、よくて停学処分。最悪退学。そして、一緒にいたわたし達も、下手をしたら監督不行き届きという名目で巻き添え食らってたかもしれないんだよ? そんなことになったら、ハウウェル家とクロフト家が、フィールズ家に黙ってるワケないでしょうが」

 お祖父様はあんまり煩く言わないかもしれないけど、セディーがどう出るかわからない。

「・・・まぁ、黙ってはいないかもしれんな。とりあえず、シバかれることは確実だ。俺が・・・」

しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

高慢な王族なんてごめんです! 自分の道は自分で切り開きますからお気遣いなく。

恋愛
よくある断罪に「婚約でしたら、一週間程前にそちらの有責で破棄されている筈ですが……」と返した公爵令嬢ヴィクトワール・シエル。 婚約者「だった」シレンス国の第一王子であるアルベール・コルニアックは困惑するが……。 ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

処理中です...