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しおりを挟む泣きそうなエリオットの頭を宥めるようにぽんぽんと撫で、フィールズ嬢に向き直る。
「部屋、というのは学園寮のフィールズ嬢の部屋、ということでしょうか?」
一応、聞いておく。夕方にはエリオットを帰すと言っていることだし。ひょっとすると、フィールズ嬢の家が学園の近くにあったりするかもしれない。
その場合はあれだ。少し……いや、かなり可哀想だけど、エリオットには諦めてもらって、フィールズ嬢へ引き渡そう。さすがに、他家の事情に口出しはできない。そうなったら、自分でがんばって逃げろ。
「ええ。なにか問題が?」
きょとんと首を傾げるフィールズ嬢に、出るのは深い溜め息。
「・・・ええ、そうですね。問題しかありません」
一応予想はしていたけど、これは酷い。というワケで、助けてあげるとしますか。
「なにが問題だと仰るのですか?」
「この学園の校則をご存知で? 通称、『キス停学』という校則があるくらいには、この学園は男女交際には厳しいことは有名な筈ですが?」
「? ええ、知っていますが。それがなにか? エリーはわたくしの妹のようなものですもの」
あ、駄目だ。これは、本当に判っていない。
「フィールズ嬢は、エリオットを退学に追いやりたいのですか?」
「え?」
驚きに見開かれる瞳。
「男子生徒のエリオットが女子寮に入るとなると、よくて停学。下手をすると退学になってしまうと思うのですが。婚約者のあなたは、エリオットの停学、もしくは退学を望んでいるのですか? フィールズ嬢はそれ程、エリオットを疎んでいるのですか? 追い落としたいのですか? それとも、ご自分が学園を辞めたいからと、エリオットを利用するつもりですか? それに、わたし達を巻き込む気ですか? 生徒が、異性の寮へ誘われていることを、それを知っていて止めなかった生徒にも、なにかしらのお咎めがあるとは思い至りませんか?」
「ち、違いますっ!! わ、わたくしはただ、前みたいにエリーと楽しく遊びたかっただけでっ……そんなことは全く考えていなくってっ……」
必死に否定するフィールズ嬢。
まぁ、彼女がエリオットのことを疎んでいるとは思っていないけど・・・
「ご実家の方ではどうだったかはわかりませんし、あなたがエリオットのことを男扱いしていないことも十分に察せられます。けど、エリオットはこれでも歴とした男です。エリオットの婚約者だと名乗っておいて、その辺りの配慮が欠けているのではありませんか? フィールズ嬢」
「・・・はい。申し訳ありませんでした」
悄然とした様子で頭を下げるフィールズ嬢に、
「れ、レイラが謝ったっ!!」
驚きの声を上げるエリオット。
「……エリー。学園では部屋に呼べないようだから、帰省解禁になったらうちにいらっしゃい」
「い、嫌だっ!! い、行かないっ!!」
「エリー? どうしてそんなことを言うの? わたくしの誘いを断ると言うの?」
苛立ちの滲む口調。
なんだか、この二人の関係性がわかるような気がする。そして、今わたしが話したことを聞いても、フィールズ嬢がなにもわかっていないということも。
「・・・突然ですが、フィールズ嬢は虫はお好きですか?」
「は? なにを仰るのですか? ハウウェル様」
なに言ってんだコイツ、という視線が向けられる。まぁ、自分でも唐突な質問だとは思っているけど。
「例えば、丸々と太った大きな芋虫のことを可愛いと思っている人がいるとして、この芋虫は毒も無くてとっても可愛いから、是非ともフィールズ嬢にも見せてあげたい、と言って、大きな芋虫を持って来られたらどうしますか?」
「虫は嫌いなので遠慮しますわ。そんなもの、見たくもありません」
心底嫌そうに顰められる顔。
「そんなことを言わず、芋虫はとっても可愛いのだから、手に乗せてみてください。一緒に可愛がってください。きっとあなたに似合いますから、と言われたら?」
「なんですの? 嫌がらせですか? わたくしは嫌だと言っているじゃないですか!」
うん。大抵の女の子は、虫が嫌いだよね。当然、そんなことは判っている。
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