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 翌日。

 ドンドンドン! と、なにかを叩く煩い音で目を覚ました。

「……っるさい……」

 身を起こそうとして、身体が怠いことに気付く。

 ああ、そういえば昨日、十時間耐久レースで久々に長いこと乗馬したんだった。

 この怠さは、全身の筋肉痛のせいか……なんて思っている間も、ドアの方からドンドンと煩いノックの音が続いている。

 のそのそと立ち上がり、ドアを開けると、

「ハウウェル先輩! 大丈夫ですかっ!?」

 心配そうな顔をしたエリオットが立っていた。

「……煩い」

 そう言ってドアを閉めると、

「あ、そんなっ、酷いですよ先輩! 先輩がお昼過ぎても出て来ないって聞いたから心配して見に来たのに~~っ!! ……って、もしかして具合悪いんですかっ!? お医者さんは必要ですかっ!?」

 益々煩くドアを叩かれた。

 時計を見ると、確かにお昼は過ぎていた。けどまだ、ランチの範囲内という時間。

「医者は要らん。ただの筋肉痛。あと、近所迷惑だからそのノックやめろ」

 ドアを開けて告げ、

「え? あ、ハウウェル先輩っ」

 パタンとまた閉める。

 エリオットはウルサいし、まだ眠い。けど、お腹は空いている。沢山運動をした後は、確りと食べないと体調を崩し易くなる。

 身支度をして、食堂に向かうことにした。

「あ、ハウウェル先輩っ」

 ドアを開けると、パッと笑顔になるエリオット。まだいたのか。

「おはようございます」
「ん、おはよ……」

 寝起きでぼーっとしながら返して、付いて来るエリオットをそのままに食堂に向かうと・・・

 なんだかざわついている気がした。

「?」

 不思議に思いながら朝食兼昼食を注文すると、

「お、や~っと起きて来たかハウウェル」
「体調はどうだ? 先輩の方は、昨日からずっと寝込んでいるらしいぞ」
「……大丈夫か?」

 テーブルを囲むいつもの面々に声を掛けられた。

「ん、おはよ……」
「もうお昼ですけどねっ。ハウウェル先輩は相変わらず朝が苦手なんですね」
「そうそう、ハウウェルってば朝はいっつも仏頂面してんだよ」

 笑ってエリオットに同意するテッド。

「……不機嫌じゃない、とはよく言っているがな」
「美人さんが無表情でいると、なんかちょっとコワいよなー」
「もう、ハウウェル先輩に失礼ですよ、メルン先輩」
「大丈夫だって、ハウウェルはこれくらいで怒んねーよ。な、ハウウェル」
「……怒りはしないけど、微妙にイラッとはする」
「あ、目ぇ覚めた?」
「一応、起きてはいるんだってば」

 あんまり頭回らないけど。

「それはおいといて。さっき、先輩が寝込んでるとか言ってなかった?」
「え? 今更そっち?」
「昨日は、コイツの乱入ですっかり先輩のこと忘れてたから。昨日、レザンが先輩を運んで行ったでしょ。その後どうだったのかな? って、今思った」
「わ~、あんな勝負までしたのに先輩のこと眼中無しかよ。可哀想ー」
「ふむ……昨日は、ぐったりしているのに、なぜか降ろせと喚く先輩をあのまま保健室まで運んで養護教諭に看てもらったが、軽い脱水と疲労。そして、日射病が重なったのではないか? ということらしい。なんでも、一度目の休憩時間に吐いてしまい、十分に水分を補給しなかったそうだ」
「ふ~ん……そっか」

 やっぱり、という感じで特に驚きはしない。

「まぁ、お大事に」
「あ、そうそう、先輩。めっちゃ噂んなってるぜ」
「どんな噂?」
「え? なにその輝かんばかりの笑顔……ちょっと照れる」
「や、そういうのは要らないから。どんな噂か教えてよ」
「……男にお姫様抱っこされて運ばれてた先輩、だ」
「おう、略してお姫様抱っこ先輩だ」

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