虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「あ、ケイトさん」

 と、行こうとしたケイトさんを呼び止めると、

「セルビア部長、寮までお送りします」

 レザンが言った。

「え?」
「もう大分暗いので。学園内とは言え、女性の一人歩きは控えた方が宜しいかと。おそらく、ハウウェルもそのつもりでセルビア部長を呼び止めたのでしょうが……疲れてもいるだろうから今日は俺が代わりに。いいだろう? ハウウェル」

 ケイトさんへ言い、わたしへと確認。

「ぁ~、じゃあ、ケイトさんを頼む」

 疲れてもいるし、服はよれよれの汗だく。今はちょっと、人には近付き難い格好だ。

 おまけにエリオットの乱入でストレッチもまだできてないし。それに、タックルをかまされた脇腹と倒れたときにぶつけた背中も痛い。あと、お腹空いた!

「うむ。では行きましょう」
「わかりました」
「れ、レザン先輩っ……」
「はい、君はこっち」

 レザンの服を掴もうとしたエリオット襟首を掴んで止める。

「ぐえっ!? な、なんでっ……」
「女子寮に行きたいなら止めないけど?」
「は、ハウウェル先輩と行きますっ!!」

 顔を青くしてぶんぶんと首を振るエリオット。

「えっと、フィールズ様は大丈夫でしょうか?」
「ああ、これくらい平気です。それより、ケイトさんは早く寮に戻った方がいいですよ」

 そう言うと、心配そうな顔をしながらケイトさんはレザンと女子寮へと向かった。

 わたし達も男子寮の方へと歩く。と、ほてほてとわたしの後ろを付いて歩くエリオット。

「ハウウェルせんぱい……」
「なに? 近いんだけど? もう少し離れなよ。レザンの代わりにわたしに引っ付くつもり?」
「ひ、ひどいでずっ……」

 酷いというか。わたし、汗臭いと思うんだけど。

「な、な、ハウウェル」
「ん? なに?」
「お前さ、さっきからフィールズの扱いぞんざいじゃね? こーんな可愛い顔してんのに蹴っ飛ばすしさ?」
「蹴飛ばした時点では、エリオットだってわからなかったんだけどね?」
「マジ? なんか、コイツ蹴ったとき言ってたぞ? 人にタックルかますなって、何度も言ってんだろ! って感じのこと。だから知り合いだって思ったんだよ」
「そうだっけ? 多分、コイツの声を聞いての条件反射じゃない? コイツ、懐いた人にすぐ突進するから。レザンは背後から体当たりされてもびくともしないんだけどさ。普通、勢いよく体当たりされたら転けたり怪我したりするでしょ。コイツ、何度言っても聞かないから」

 そして、コイツはこんな美少女顔とやらなりをしているけど、騎士学校に通っていただけあって、結構頑丈で打たれ強い。

「あー」
「……今思ったのだが」

 と、ずっと黙っていたリールが口を開く。

「おー、なんだリール?」
「フィールズの寮はこっちなのか?」
「ああ、そう言えば……エリオット」

 男子寮の棟は複数ある。

「はい? なんですか? ハウウェル先輩」
「君の寮はこっちでいいの?」
「! す、ストール巻いてもいいですかっ!?」
「まぁ、それは別にいいけど……」

 そのストール、多分汗と涙と鼻水でべちゃべちゃな気がする。エリオット本人が構わないなら、別にいいけど……気持ち悪くないのかな?

「え? お前、またそれ巻くの? 涙と鼻水でべちょべちょじゃん。やめとけやめとけ」
「で、でもこれ巻いてないと……僕、女の子に間違えられるんです……」

 後半は絞り出すような小さな声。

「はあ? なに言ってんだよ。こーんな美人さんなハウウェルが普通に男子寮で暮らしてんだぜ? 要は慣れだろ、慣れ。お前の顔を覚えてねーからそんなこと言われんだよ。普通に顔出して歩きゃ、誰もんなこと言わなくなるって。な、ハウウェル」
「ぁ~、そうかもね」
「そうなんですねっ!? それじゃあ、覚えてもらえるようがんばりますっ!!」
「で、君の寮は?」
「あ、こっちの方で合ってます」

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