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「ハウウェルぜんばいっ、あいたかったでず~~~~っ!?」

 アルトの声が響いて、ドン! と脇腹になにかがぶつかって来た。

「ぐっ、がっ!?」

 長時間の乗馬の疲れからか、踏ん張ることができず、べしゃっと地面に倒れ込む。頭突きの入った脇腹と、ぶつけた背中が痛い。そして、上に乗っている奴が重い。

「人にっ、いきなりタックルすんなって何度も言ってんだろうがっ、このボケがっ!?」

 イラッとして怒鳴り、わたしにしがみ付いている奴を蹴飛ばして退かす。

「がはっ!?」

 息の詰まる音が聞こえたけど、気にしない。痛む背中をさすりつつ、身を起こす。

「は、ハウウェルが襲って来た奴怒鳴って蹴っ飛ばしたっ!? つか、それなに?」
「?」

 それ、と言われて蹴飛ばした奴の方を見ると、ストールで顔をぐるぐる巻きにした男子(多分)が地面に倒れていた。イラッとして思わず蹴飛ばしたけど、なんだかすっごく怪しい奴だ。

「えっと、ネイサン様の名前を呼んでいましたが、お知り合いでしょうか?」
「名前、呼ばれてました? 脇腹に頭突きされて、背中もぶつけて痛かったのでちょっと……」

 あと、なんて怒鳴ったっけ?

「ふむ・・・もしかして、フィールズだろうか?」
「ふぇ? その声は、レザン先輩ですかっ!?」

 と、ストールで顔をぐるぐる巻きにした奴がパッと立ち上がる。

「そうですっ、僕です! エリオット・フィールズです! エルです! 会いたかったですっ!! ハウウェル先輩っ、レザン先輩っ!!」
「……もしかしなくても、騎士学校時代の後輩か?」
「はいっ!! ハウウェル先輩の弟子ですっ!!」
「え? 弟子?」
「や、違うから」
「そんなっ、ヒドいですよハウウェル先輩! って、なんでそんなところに座っているんですか? 服が汚れますよ? あ、もしかして怪我でもしたんですか? 大丈夫ですか? 立てます?」

 と、わたしにいきなりタックルをかましたアホが手を差し出す。

「ははっ、つい今し方、どこぞのアホにタックルかまされて転ばされたんだけどな?」
「ハウウェル先輩にそんなことをする奴がっ!? 一体誰ですかっ!?」

 と、辺りを見回すストールぐるぐる巻きの頭。その状態で見えるのか? というか、なぜにそんな格好しているんだか?

「や、今ハウウェル押し倒したのお前じゃん」
「え? ええっ!? 僕ですかっ!? ごめんなさいハウウェル先輩っ!!」

 がばっと頭を下げるエリオット。

「な、な、ハウウェル。もしかしてアホの子?」
「まぁ、見ての通りだね。ありがと」

 声を潜めて聞くテッドの手を取って立ち上がる。ああ、背中と脇腹が痛い。

「その、背中と脇腹が痛いとのことですが……大丈夫でしょうか? ネイサン様。そちらの方も、どこか痛いところはありませんか?」
「っ!! お、女の子がいる~~~っ!?」

 ケイトさんが言った途端、ビクッ! として、レザンの背中に隠れるエリオット。ケイトさんはさっきからいたんですけどね?

「ハウウェル先輩、レザン先輩っ、ここ、このがっこう、女の子がいっぱいいるんですっ!? 助けてくださいっ!?」
「は? ここ共学だぞ? 女の子いて当然だろ、なに言ってんのコイツ?」
「……まあ、ちょっと気持ちはわかるが……」

 エリオットの言葉に、アホを見る視線になるテッド。わかると呟いたリールは……まぁ、女の子が苦手だったな。

 でも、エリオットはリールよりも深刻のようだ。

「女の子こわい、女の子こわい……」

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