虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 そして、次の四時間がスタートする。

「ハッ、随分と疲れているようだな? さっさと尻尾巻いて逃げたらどうだ?」

 スタート位置に着いた傍から、飛んで来たイヤミ。わたしはまだ余裕なんだけど。

「先輩の方こそ、お顔の色が優れないように見えますが? まさか、たった四時間程度の乗馬で気分が悪くなったんですか? なんだったら、今すぐ棄権してもいいですよ?」

 と、返す。

「誰が棄権するかっ!!」

 怒鳴り返されるも、先輩の顔色は悪い。

 多分、節制しないで朝ごはんを普通に食べたんだろうなぁ。休憩時間中に吐いたのかもしれない。酸っぱい匂いがしているし。

 わたしに疲れているようだと言ったのは、揺さぶりのつもりかな? いるんだよね。相手にプレッシャーを与えて、調子を崩させようとする性格の悪い人。まぁ、先輩の方が顔色悪いから、全く意味の無い揺さぶりなんだけど。

「そうですか。では、お互い正々堂々勝負を続けましょう。ああ、落馬には気を付けてください」
「誰が落馬なんてするかっ!! ふざけるなっ!!」

 まぁ、あれだ。棄権をしないというのなら、具合が悪くても容赦はしない。

 怒鳴るくらいの元気はあるようだし・・・しっかりと叩き潰してやろうじゃないか。

 レース、再開。

 様子見でゆったりと走らせていると、先輩の方はやはり具合が悪いのか、先程よりもペースダウンしている。まぁ、吐いた後って、気持ち悪いよねぇ。そして、揺れるともっと気持ち悪くなる。

 半ば意地で走っているのかもしれないけど、頑張れるところまで頑張ればいいと思う。

 一応、落馬とかしそうなら助けてあげるとしますか。わたしとの勝負で大怪我でもされたら、かなり寝覚めが悪いし。

 と、先輩の様子とその馬、そして自分が乗ってる馬の様子を見ながらトラックを進む。

 お腹が空いたと思ったら、ポーチからお菓子を取り出して口に放り込む。

 喉が渇くのと、暑いのは我慢。一応、暑いことは暑いけど、風はめっちゃ感じているから我慢できないこともないし。

 タッタカとひたすら駆け、ぐるぐるとトラックを回る。ぐるぐる、ぐるぐると・・・

「……ぁ~、眠くなって来た……」

 今日は早起きしたからなぁ・・・って、こういう気の緩んだときに事故が起こり易くなるんだよね。

 目、覚まさなきゃ。と、お菓子を口に放り込む。キャラメル美味しい。糖分が身に染みる。

 そうこうしているうちに、四時間が経過。

 二回目の休憩時間。

 スタートの位置まで戻って馬を降りると・・・

「ぅぐっ……」
「?」

 くぐもった呻き声がしたので横を見ると、先輩が馬に突っ伏していた。

 どうやら、馬から降りられないくらい気分が悪くなってしまったらしい。

 先輩の取り巻きっぽい二人の男子はおろおろしている。

「大丈夫かー、ハウウェル」

 と、テッドが寄って来たので頼むことにする。

「わたしは大丈夫だけど、先輩が大丈夫じゃないみたい。養護教諭を呼んで来てくれる?」
「おう、任しとけ。あ、これほい」

 ぽいっとタオルをわたしに放って、

「ありがと」

 テッドはダッシュで養護教諭を呼びに行ってくれた。さて、先輩を馬から降ろしますか。

「大丈夫ですか? 先輩」
「・・・」

 声を掛けてみるも、先輩は口許を押さえて返事をくれない。先輩の取り巻きは相変わらずおろおろしている。

「自分で降りられます? 降りられないようなら、手を貸しますよ?」

 と、手を差し出すが、先輩は首を振ってわたしの手を取らない。

「ふむ……具合が悪いようだな。降ろすか。ハウウェルは馬の方を頼む」

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