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しおりを挟む最初に乗る馬は、複数頭見繕った中から調子の良さそうな子を選んで決めた。
「よろしくね?」
と、声を掛けてからトラックへ向かう。
「・・・なんか、ギャラリー多いな」
いつものは馬場には乗馬クラブの部員かクラブの見学者が十名ちょいいるくらいだというのに、今日はなんだか人が多い。
休みのときには見学者が増えたりするけど、朝早くからこんなにいるところは見たことない。どこぞで耐久レースの話を聞き付けて、暇な生徒達が見学をしに来たのかもしれない。
そんなことを考えていると、
「ネイサン様」
少しだけ心配そうな顔をしたケイトさんがやって来ました。
「あまり無理はしないでくださいね」
「はい。大丈夫です。必ずや、あの野郎に吠え面を掻かせてみせましょう。楽しみにしていてくださいね? ケイトさん」
「ええと、そういうことではないのですが……」
わたしの決意表明に、なんだかちょっと困った顔をするケイトさん。なんでだろ?
「ネイサン様。呉々も事故の無いよう、怪我の無いよう、気を付けてくださいね? 少しでも無理だと思ったら、勝敗に構わず棄権してください。元は、わたしに挑まれた勝負ですので。ネイサン様になにかあったら、わたしはセディック様申し訳なくて、顔向けできなくなってしまいます」
「ふふっ、大丈夫ですよ。十時間耐久レースなんて、騎士学校の訓練に比べたらなんてことないので……あ、これはセディー達には内緒でお願いしますね?」
「……ええ、わかりました」
心配そうに、けれど微笑んで頷くケイトさん。
「わたしは大丈夫ですので。ケイトさんはあの野郎の吠え面を楽しみに、大船に乗ったつもりで見ていてくださいね? では、行きましょうか」
と、馬を連れてスタートの位置に向かった。
「ハッ、どうやら逃げずに来たようだな。どうせ恥を掻くなら、不戦敗の方が無駄な労力は使わなかったんだがな?」
隣に並んだ野郎から、早速飛んで来るイヤミ。
ははっ、もう勝つ気でいやがるよ。気が早いことで。しかも、わたしの負けは確定で、恥を晒す前に棄権しろって? その言葉、後で絶対後悔させてやる。
「ご心配ありがとうございます。先輩の方こそ、後で『体調が悪かったから負けた、今のは無効。もう一度勝負だ』などという見苦しい真似はやめてくださいね?」
にっこりと微笑んで返せば、
「いいだろう! 絶対後悔させてやるっ!!」
顔を赤くさせて声を荒げる先輩。
そして、レザンと先輩が選んだ記録係が紹介されて、部長であるケイトさん立ち合いの下、公平を期する為に調教師の方が審判として裁定すること、正々堂々と勝負することを宣誓し、ルールとお互いの勝ったときの条件の確認。
「俺が勝ったら、お前は副部長をやめる。そして俺は、改めてセルビアに、部長の座を賭けた勝負を申し込む」
「ええ。いいでしょう。わたしが勝ったら、先輩にはセルビア部長と部員に謝って頂きます」
「ハッ、万が一も無いとは思うが、いいだろう」
よっしゃ、言質は取った!
是非とも、みんなの前で謝って頂きましょう。
そして、事故や怪我に対する注意事項を聞いて、わたしと先輩以外がトラックの外周から退避して――――
馬に乗り、定位置へ。それから旗が振られ、レーススタート。
最初は馬の調子を見ながら、ゆっくりと駆け足。
先輩の方は、最初っから飛ばしてますね。
あのペースで走り続けるのは大変だと思うんだけどな? まぁ、あの野郎がへばるのは大歓迎なんだけど。
と、マイペースに進んでいると、あっという間に周回遅れになった。
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