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「話がそれだけなら、もうお帰りを」
「は~、相っ変わらず、ウチにはつれねーっすねー。ま、いいっす。そうっすね、今日は・・・ウチの身の上話とかしに来たっす」
「全く興味無いんですけど?」
「いいから聞くっす。あれはそう……ウチがまだ、子猿の如く野山を駆け巡っていた頃のことっす」
「・・・長くなります? わたし、眠いんですけど? 手短にお願いします。三分くらいで」
「はいはい、要約するっすよ。ウチの家は、クロフト様んとことはまた違った、諜報関係の軍人の家系なんすよ」
「そうですか」
「そうなんすよ。んで、ウチはちっこい頃から、父ちゃんにド田舎の限界集落に放り込まれて、サバイバル訓練も兼ねた自給自足の暮らしをしてたっす」

 それはまた、ある意味ハードというか・・・野山を子猿の如く駆け巡っていたというのも、誇張ではないのかもしれませんね。

 他人の部屋の窓に張り付く身体能力は、そうやって培われたということですか。

「その、限界集落には、ウチを可愛がってくれた猟師の娘のおねーさんがいたっす。ウチは、そのねーちゃんのことが大好きだったっす。ねーちゃんには、山の歩き方や食べられる野草、野宿の仕方、狼に囲まれたときの対処法、狩りに使える罠の作り方……いろんなことを教わったっす」

 可愛い系の顔に似合わず、かなりのサバイバーのようですね。アルレ嬢は。

「けど、ある日突然、その限界集落にどこぞでやらかした馬鹿なボンボンが領主としてやって来たっす」

 ・・・もしかしてこれって、アルレ嬢が難あり貴族のことを恨んでいる原因的な話だったりするんでしょうか?

「その、クズ野郎は赴任っつか、左遷? されて来た途端、こともあろうに……時代遅れの因習、初夜権がどうたらとクソたわけた寝言抜かして、村の若い娘を差し出せって言ったそうっす」
「・・・は? 今時そんな、時代遅れも甚だしい、野蛮つ横暴なことを言い出す馬鹿が?」
「残念ながら、いたんすよねー。ちなみに、村民三十名程の村に、女の子は当時十六のねーちゃんと、ねーちゃんよりも年下の十三の子と、八つのウチしかいなかったっす。それで、村のみんなは話し合ってねーちゃん達を逃がすことにしたらしいんすけど・・・」
「・・・それ、わたしが聞いても大丈夫な話です?」
「勿論っす。つか、聞いてほしいと思ってっから話してんすよ。で、まずは十三の子を村から出して、その後にねーちゃんが出て行く予定だったんす」
「? あなたは、村を出なかったんですか?」
「ウチはその当時、まるっきり男の子みたいだったっすし。それに一応、ウチは村民じゃなかったってのもあるっすね。村で暮らしてても、よそ者っす。あとは、さすがに年齢一桁のガキには手ぇ出そうとは、誰も思ってなかったんじゃねぇっすか?」
「そうですか」
「それでっすね、ねーちゃんが逃げるってなったときに、ねーちゃんの幼馴染がねーちゃんを売ったんすよ。名ばかりクズ領主に」
「え?」
「狭い村のことっすからね。将来は一緒になる人かも、ってぇ男に金目当てで裏切られたねーちゃんは、そのクズ領主の屋敷に監禁されて一晩を過ごし・・・」

 ふぅ、と落ちる溜め息。

「翌朝、悲惨な状態になっているのを発見されたらしいっす。パニックになって暴れ狂ったねーちゃんは気が触れた女として、そのまま近くの修道院に押し籠められちまったんす。それからのねーちゃんは男を信用できなくなっちまって、今も修道院で暮らしてるっす。ねーちゃんがいなくなって、後から聞かされた話がこれっす」

 軽いトーンでへらへらとした語り口だったのに、想像以上に重たい話だったっ!?

「で、ウチはねーちゃんみてぇな悲劇を生み出さねぇよう、バンバンクズ貴族を退治してやろうって思ったんす。それで容姿的に、諜報員っつーか、ハニートラップ要員として頑張ってるってワケっす」
「それは・・・その、被害に遭われた方はご愁傷様でしたが・・・村の方は、どうなったんですか?」
「村っすか? ねーちゃんが暴れて、そのクズ男の股間を思いっきり蹴飛ばしたことで町に医者を呼びに行ったりして大騒ぎになったっすからね。クズ野郎は入院して、そのまま村には帰っては来なかったっす。あと多分、ウチの父ちゃんが手ぇ回したんじゃねぇっすか? クズ野郎は不能になったらしいっすけど、その後の話は聞かねぇっす」
「・・・はい? 今、なんと?」


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