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しおりを挟む「はい! おやくそくします」
リヒャルト君が真っ直ぐに育てられたことがわかるような、迷いのない即答。
優しい子なんだと思う。セルビア嬢が溺愛するのもわかる気がする。
「ふふっ、約束ですよ? リヒャルト君。では、肩車をしましょうか?」
立ち上がり、リヒャルト君へと手を差し出す。
「おねがいします!」
「はい。行きますよ、っと!」
リヒャルト君を背中側から抱き上げて、ひょいと肩の上に乗せる。軽いなぁ。小さい頃は、スピカを抱っこするのも一苦労だったのに。
まぁ、リヒャルト君は軽いからいいけど、髪が長いと肩車で下の方をするのには向いてないんだよね。
騎士学校時代、肩車の下の方になったときは散々だった。乗せた奴は重いし、首の後ろで括った髪の毛が踏まれて引っ張られて痛いし、おまけに訓練着(軍服仕様だったのでポケットが多い)のボタンや金具に引っ掛かるわ、髪の毛がブチブチ抜かれるわで、本っ当に最悪だった。
それからは、肩車で下の方になるときは、三つ編みにして髪をまとめることにしている。
まぁ、それでも引っ掛かるときは引っ掛かるけど。普通に括っている上に乗られるよりは大分マシだ。
「わー! たかいです!」
どうやら怖がってはいないようだ。よかった。
「では、歩きますよ?」
一歩踏み出すと、
「きゃー!」
きゃっきゃと喜ぶ高い声。
「ふふっ、楽しいのはいいんですけど、静かにしないと雛が驚いてしまいますよ?」
「あ、そうでした! あかちゃんのとりさんがびっくりしないよう、しーです」
慌てたように声を潜めるリヒャルト君。
「はい。それじゃあ、巣の方に行きますよ?」
「はいっ」
と、巣の掛かっている枝の方へ向かう。
ピィピィと鳴き声は聞こえているが、リヒャルト君は巣を覗き込めているだろうか?
「見えますか?」
「……はいっ、ちっちゃくてぽわぽわしたとりさんがさんわ。おくちをあけて、ぴぃぴぃないています。かわいいですっ♪」
潜めた声ではあるけど、そのテンションは高い。どうやら、雛の可愛さに興奮しているようだ。
暫くそのままでいると、
「……ぁぁ、あかちゃんのとりさん、だっこしてなでなでしたいです……」
うっとりしたような囁きが聞こえた。
あれだ。リヒャルト君の我慢できなくなる前に、離した方がいいかもしれない。
「リヒャルト君」
「はい、なんですか? ネイトにいさま」
「親鳥が帰って来るかもしれないので、そろそろ離れましょうか」
「・・・はい」
しょんぼりした返事。
「じゃあ、折角なので、もう少し肩車をしていましょうか?」
「はい!」
と、リヒャルト君を乗せたまま、頭上から雛鳥の可愛さを力説されながら庭を案内してもらっていると、セディーとセルビア嬢の話し合いが終わったとセルビア家の使用人に呼ばれた。
リヒャルト君を肩から降ろして髪を直し、手を繋ぎながらセルビア家に戻って、一緒に座って話を聞きました。
婚約は無事成立したとのこと。
今度、お祖父様とおばあ様も交えて改めて挨拶の場を設けるそうです。
両親は蚊帳の外にするので、問題無いのだとか。
セルビア嬢は少し複雑そうな顔をしていましたが、セディーの言う通り、両親とは別に顔を合わせなくてもいいと思います。
お祖父様とおばあ様とは、仲良くしてもらえると嬉しいですけど。
「・・・ケイト」
話し終えると、なにかを考えるように押し黙っていたセルビア伯爵が口を開きました。
「はい、なんでしょうか?」
「その、だな……ケイトは本当にセディック君と婚約したいのか?」
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