虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「ネイトにいさま! あかちゃんのとりさんみえますかっ?」
「う~ん……残念ながら、見えませんね」

 レザンくらい高ければ見えるかもしれないけど、わたしはあんまり背が高い方じゃないからなぁ。一応、わたしは別にちびというワケではない。
 レザンと一緒にいるから小さいと言われることも、なくはない。けど、それは奴の身長が高いだけで、わたしが殊更ことさら低いというワケじゃない。それに、わたしは成長期。身長は、これからも伸びる筈だ!

「そうですか……にわしのじいにだっこしてもらっても、とりさんみえないんです。はしごはあぶないから、だめっていわれました」

 リヒャルト君がしょんぼりした顔になる。

 鳥の巣が掛かっているのは、大体二メートルくらいの高さがあるかな?

 幹に手を付いて木を見上げていると、

「あ、きにのぼったら、みえますかっ?」

 しょんぼり顔から一転、きらきらした期待するような顔が見上げて来る。

「う~ん……」

 この木は広葉樹で、しっかりした枝が多く、登ろうと思えば簡単に登れるだろう。でも、ここは余所のお宅。しかも、雛鳥を見たいのは、わたしじゃなくてリヒャルト君だ。

 わたしが木登りして、ピィピィ鳴いている雛を見たって、意味がない。リヒャルト君を抱えて登るのも、危ないので却下。

 かと言って、このきらきらと期待に満ちた顔を曇らせるのも忍びない。

 後ろで簡単にくくった髪を解いて、三つ編みにして結び直し、左側に流す。

「肩車をすれば、見えるかもしれませんね」
「かたぐるま?」
「はい。わたしの肩に乗りますか?」
「いいんですか?」

 目はきらきらとさせて、けれど遠慮がちに尋ねるリヒャルト君。

「ええ、いいですよ。でも、約束してください」

 しゃがみ込んで、リヒャルト君と視線を合わせる。

「おやくそく、ですか?」
「はい。鳥の巣や、雛に手が届きそうだと思っても、絶対に触ってはいけません」
「さわっちゃ、だめなんですか? なでなでしたいです」
「駄目です。親鳥が帰って来たら、攻撃されるかもしれないですからね」
「ぼくは、とりさんにいじわるしないですよ?」
「リヒャルト君がイジワルをしなくても……そうですねぇ。リヒャルト君は、見たこともない知らない人がお家に来て、いきなり抱っこされたらどう思いますか?」
「え?」
「そして、リヒャルト君をどこかに連れて行ってしまおうとしたら、怖いと思いませんか? どこに連れて行かれるんだろう? なにをされてしまうんだろう? って」
「そんなの、いやです。こわいですっ……」

 嫌々と首を振るリヒャルト君。

「そうですよね? 鳥の雛は、リヒャルト君の手に乗るくらい小さいんですよ? 小さな雛からしたら、リヒャルト君はすっごく大きく見える筈です。そんな大きな人にいきなり捕まえられたら、びっくりして、とっても怖い思いをするんじゃないでしょうか?」
「……はい」

 それに、野生動物は人間の匂いを嫌う。野生の鳥は、人間の匂いの付いた雛を育てなくなって見殺しにしたり、或いは巣から落として殺したりもする。

 それは、とても気分が悪い。

「だから、雛に……鳥さんに怖い思いをさせないように、巣や雛には触っちゃいけません。そっと覗くだけにしてください。それを、わたしと約束できますか?」
「はい! おやくそくします」

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