虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
267 / 673

番外。ブラコン同盟結成24

しおりを挟む


「そんなに簡単に他人を信用しても宜しいのですか? 次期侯爵様が」

 ひやりとした声と厳しい目が向けられる。

「一応、人を見る目はあるつもりなので。それに、僕は色々と恩を売っていますから」
「・・・そうですか。ハウウェル様は、大変貴族らしい方でしたね」

 僕の応えに、深い溜め息。

「お褒めにあずかり光栄です。では、メリットの方を話しますね? 離縁がしたくなったら、言ってください。すぐには難しいかもしれませんが、時期を見て応じます。慰謝料もお支払いしますので、その辺りはご心配なく」
「最初に話すのが、離縁のことですか・・・」

 呆れたような声。

「ええ。大事なことでしょう? こういうことは、最初にきちんと決めておいた方が後々拗れ難いと思うので。そして、侯爵夫人が必要とされるとき以外は、いつでも里帰りしてくれて構いません」
「ハウウェル様は、婚姻関係をどうお考えで?」
「? ケイトさんが、帰りたいかと思いまして」
「わたしが……?」
「ええ。これから、リヒャルト君はどんどん成長して行くでしょう? その成長過程を見過ごすのは、つらいことではありませんか? 僕は、ネイトと何年も離れていたので、大きくなって行くネイトを見守ることができなくて、酷く悔しい思いをしましたから。うちとセルビア家は、少々離れていると言っても、馬車で数時間程度。馬に乗るともっと早いと思いますし、大した距離ではありませんから。お好きなときに里帰りをどうぞ」
「……嫁いで行った娘は、もう婚家の者。気楽に実家には帰れないものと思え、というのが常識だと思うのですが……」

 ぽつんと落ちる呟き。

「ケイトさんが結婚を躊躇ためらっていたのも、それが原因ですか? 結婚して嫁ぐと、リヒャルト君とは頻繁に会えなくなってしまう、と。そういう教えは、もう古いと思いますよ? うちは、おばあ様が隣国出身の方ですからね。若い頃には、ちょくちょく帰ったりしていたみたいですから」
「そう言えば、そうでしたね」
「ええ。隣国と比べれば、馬車で数時間なんて大した距離ではないでしょう? それに、可愛い弟を見守りたい気持ちは、僕には非常によくわかるので。別に結婚したからといって、家に帰るな、可愛い弟に会うな、と言う程、僕は鬼ではありませんよ」
「そうですか……」
「どうです? 僕と婚約したくなりましたか?」
「……いいでしょう。わたしには、とても魅力的な条件なので、お受け致します」
「ありがとうございます。あ、そうだ。リヒャルト君が成長して、学園に通うようになったとき、できれば行事などの情報を僕にも教えて頂けると嬉しいですね」

 ケイトさんと一緒にリヒャルト君の成長を見守るのも楽しそうだ。

「わかりました」
「では、婚約期間の調整や式については、セルビア伯爵夫妻やお祖父様、おばあ様も交えて決めましょうか」
「ええ・・・」
「どうかしましたか?」

 なにやら思案するような顔をするケイトさん。

「いえ、大したことではありませんが……ハウウェル様とわたしの関係は、婚約や婚姻というよりは、同盟のようだと思いまして」
「ふふっ、いいですね。では、僕達の同盟は、無事締結したということで」

 手を差し出すと、すっと手が握り返される。

 僕の手よりも小さいのに、少し硬くてネイトの手に似ているなと思った。


__________


 長かったですが、これでブラコン同盟編は終了です。次回からネイサン視点に戻ると思います。

 そして、宣伝です。

 『俺の暗殺を企んでいる(と思しき)婚約者に婚約破棄を叩き付けたら、社会的に抹殺されたっ!?』という短編を投稿しました。

 内容はタイトル通り。主人公のクズ王子は、社会的に抹殺されます。

 ※2話目以降から、会話や長セリフ多め。
 ※途中、ガッツリ下ネタ入りますが、エロはありません。
 ※人によってはギャグに見えるかもしれませんが、ブラックです。

 既に書き上げ済みで、全7話。公開中です。

 興味がある方は、覗いてやってください。
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された王女が全力で喜びましたが、何か問題でも?

yukiya
恋愛
 ファントム王国の第一王子、アスロンから、夜会で婚約破棄を叫ばれたエルステーネ(隣国であるミリガン王国の第二王女)だが。 「それ、ほんとうですか!?」  喜ぶエルステーネにアスロンが慌てて問いかける。 「え、何故喜んでいるか?そりゃ、馬鹿なこの国の馬鹿な王子に婚約破棄されたら嬉しいでしょ」

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪
恋愛
リラジェンマは第一王女。王位継承権一位の王太女であったが、停戦の証として隣国へ連行された。名目は『花嫁として』。 だが実際は、実父に疎まれたうえに異母妹がリラジェンマの許婚(いいなずけ)と恋仲になったからだ。 要するに、リラジェンマは厄介払いに隣国へ行くはめになったのだ。 ところで隣国の王太子って、何者だろう? 初対面のはずなのに『良かった。間に合ったね』とは? 彼は母国の事情を、承知していたのだろうか。明るい笑顔に惹かれ始めるリラジェンマであったが、彼はなにか裏がありそうで信じきれない。 しかも『弟みたいな女の子を生んで欲しい』とはどういうこと⁈¿? 言葉の違い、習慣の違いに戸惑いつつも距離を縮めていくふたり。 一方、王太女を失った母国ではじわじわと異変が起こり始め、ついに異母妹がリラジェンマと立場を交換してくれと押しかける。 ※設定はゆるんゆるん ※R15は保険 ※現実世界に似たような状況がありますが、拙作の中では忠実な再現はしていません。なんちゃって異世界だとご了承ください。 ※拙作『王子殿下がその婚約破棄を裁定しますが、ご自分の恋模様には四苦八苦しているようです』と同じ世界観です。 ※このお話は小説家になろうにも投稿してます。 ※このお話のスピンオフ『結婚さえすれば問題解決!…って思った過去がわたしにもあって』もよろしくお願いします。  ベリンダ王女がグランデヌエベ滞在中にしでかしたアレコレに振り回された侍女(ルチア)のお話です。 <(_ _)>

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

21時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

処理中です...