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番外。ブラコン同盟結成23
しおりを挟む「……ケイトを、宜しくお願いします」
低い声が少し掠れていて、よく見るとセルビア伯爵の目が潤んでいる。
ああ、もしかしたらこれが、子供の心配をしている親の姿なのだろう……と、そう思った。
うちの親がこういう表情をしているところは、見たことがない。お祖父様とおばあ様のこういう顔は、見たことがあるけどね。
「はい。これから宜しくお願いします。とは言え、この縁談はケイトさん次第ですからね。無理強いはしたくないので。まずは、ケイトさんの気持ちを聞いておかないと」
ちらりとケイトさんの方を見やると、
「そ、そうでしたね。ケイトの方はどうなんだ?」
慌てたようにケイトさんへ確認を取るセルビア伯爵。
「あなた、ここは二人だけにしてあげましょう」
伯爵夫人がそう言って、ケイトさんと二人で応接室に残される。
ネイトは、リヒャルト君に誘われて外に向かった。宣言通り、早速リヒャルト君と仲良くするつもりらしい。
「では、この婚約に当たってのメリットとデメリットのお話をしましょうか? デメリットを話しておかないのは、フェアじゃないですからね」
「デメリット、ですか・・・」
なにか言いたげにケイトさんの口が開かれたが、なにも言わないでその口が閉じる。
「まぁ、ケイトさんがご察しの通り、デメリットはうちの両親ですね。割と有名ですからねぇ。うちの親の駄目さは」
「ハウウェル様のご両親は、この縁談をご存知なのでしょうか?」
「いいえ? 知らせる必要を特に感じないので」
「・・・ハウウェル様方とご両親は、そこまで不仲なのですか?」
「端的に言えば、僕はあの二人のことが嫌いなんですよ。長年、ネイトのことを蔑ろにして来たあの二人を、許しません」
「ご挨拶はどうするのですか?」
「会っても不快な思いをするだけですよ? それに、ケイトさんの了承とお祖父様の許可があれば、この縁談はまとまります。権限の無い人に了解を得る必要はありませんよ」
「そう、ですか・・・」
複雑そうな表情で僕を見詰めるケイトさん。
「ちなみにですが、遅くてもあと五年以内には僕が侯爵位を継ごうと思っているので、両親と付き合う必要はありません。一応、お祖父様とおばあ様とは、仲良くして頂けると嬉しく思いますけど」
ケイトさんは、おばあ様と気が合うと思う。まぁ、母とは絶対に合わなさそうな印象だ。
「多分、結婚して少ししたらすぐに侯爵夫人として動いてもらうことになると思います。そして、有事の際には、ケイトさんに采配をお願いすることがあるかもしれません」
「え?」
「ケイトさんだって、次期当主となる為の教育や領地経営を学んでいたのでしょう? それらは、無駄にはなりませんよ。デメリットと言えば、これくらいでしょうかねぇ……」
「・・・わたしは、セルビア家の人間ですよ?」
「ええ。でも、僕と結婚すれば、ハウウェル家の人になる。違いますか?」
「わたしのことを、そこまで信用して宜しいのですか?」
「ケイトさんの人間性は、信用していますよ」
「そんなに簡単に他人を信用しても宜しいのですか? 次期侯爵様が」
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