虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
250 / 673

番外。ブラコン同盟結成7

しおりを挟む


「そう、ですね」

 乗馬が下手で、馬に上がるのにももたついて、馬に舐められているようなところばかり見ていたから、あまり意識することがありませんでしたが、この人は……ハウウェル様は、上位貴族に成ることが約束されている人でしたね。

 ハウウェルの侯爵家を継ぐ方。初めて、そう実感しました。

「後継問題は、どこの家にも付きものですから」
「ええ……」

 次に生まれて来るのが妹か、弟か・・・

 それは、ずっと言われていたことです。「弟が無事に成長したら、ケイトは用済みだ」とは、親族にはよく言われていました。今でも、顔を合わせる度にわざわざ言って来ますし。挙げ句、「嫁の貰い手の心配でもしておくんだな」などと、余計なことも・・・

「セルビアさんが、本当は弟さんを可愛がりたいと思っていることを知らないで、言いたい放題。周りの人間に、弟さんとの仲を、勝手に悪く・・させられ・・・・てもいいんですか?」
「え?」
「そろそろ話せるようにもなると思いますし。そのうち、セルビアさんは弟さんに聞かれてしまうんじゃないですか? 『自分のことが嫌いなの?』と」
「そんなことはありませんっ!?」

 思わず、強く言い返していました。

「そうですか。では、それを直接弟さんへ伝えてみればいいと思いますよ?」

 怒鳴ってしまったというのに、にこりと微笑むハウウェル様。

「で、でも、リヒャルトはまだ一歳ですよ? 言葉が通じるとは……」
「一歳だとしても、言葉が通じなくても、目の前にいる相手が、自分のことを好きか嫌いかくらいは判ります。それに、小さい子に長いこと会わないでいると、酷く恐ろしいことが起こるんですよ? 知っていますか?」

 じっと、真剣な瞳がわたしを見据えます。

「恐ろしいこと、ですか?」
「ええ、非常に恐ろしいことです」
「それは、一体……」
「忘れられてしまうんです」
「え?」
「幾ら血縁なのだとしても、小さい子というのは、あまり会わない相手のことは、すぐに忘れてしまうんです。そして、兄弟だというのに、きょとんとした顔で、『はじめまして』と、言われてしまうのですよっ!! 自分の可愛がっている弟に、そんなことを言われてしまってもいいんですかっ!? あれは結構なダメージですよっ!? いえ、それでも、うちのネイトはすっごくすっごく可愛かったんですけどねっ!?」

 いきなり取り乱すハウウェル様。どうやら、ハウウェル様の経験則のようです・・・

 おそらくはハウウェル様方の幼少期の頃のことだとは思いますが、弟さんに忘れられてしまう程、会えなかったのですか。

 ・・・いつか、多分そろそろだとは思いますが、喋れるようになったリヒャルトに、「だぁれ?」なんて言われると思うと・・・む、胸が痛いっ!!!!

 あ、なんかちょっと泣いてしまいそうです。

「セルビアさん、今ならまだ間に合う筈です!」

 と、ハウウェル様に説得をされたわたしは、週末は家に帰ってリヒャルトに会いに行こうと固く決意しました。

 あんな、「だぁれ?」なんて、忘れられるなんてそんな、想像するだけで胸が締め付けられるように苦しいというのに・・・事実になってしまったら、心底恐ろしい。

 それから、一日千秋の思いで数日を過ごし、週末の放課後には即行で帰宅し、父を無視してリヒャルトに構い捲りました。

 誰に、『ケイトはリヒャルトのことを嫌っている』と思われてももう関係ありません。

 わたし・・・が、リヒャルトのことを好きであればそれでいいのです。

しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】誠意を見せることのなかった彼

野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。 無気力になってしまった彼女は消えた。 婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

処理中です...