239 / 673
220
しおりを挟む「諜報活動なんてそんな危ないことしないよねっ!?」
泣きそうな顔でわたしを見詰めるセディー。
「もう、落ち着きなさいってさっきから言われてるでしょ。あなたがそんな風だから、ネイトが話し難いのよ」
ぺしっと、おばあ様が扇子でセディーの頭を軽く叩いた。
「! おばあ様」
「それで、ネイトはどうしたいのかしら?」
不満そうなセディーには構わず、わたしへと話を促すおばあ様。
「わたしも、軍に入るつもりは無いです」
「ホントっ!?」
「うん」
頷くと、凄くほっとした顔をされた。
「それで、一体どういった経緯で諜報部にスカウトをされることになったのだ?」
「経緯、ですか・・・」
高等部三年の卒業が近くなって、情報収集やら難アリ貴族子女達を唆したりする人員の後釜を探していたアルレ嬢の目に留まったから……なんて、正直には言えないよね。
ある程度ぼかせば大丈夫かな?
「ざっくり言うと、学生の中に軍属の方がいて、その方が今年で卒業とのことで、後釜としてスカウトされてしまったという感じですね」
「ふむ・・・成る程」
「そっか。それじゃあ、ネイト。転校しよっか」
にっこりと微笑みながら言うセディー。
「うん。そうしよう。そしたら、そんな危険人物と接触することもないでしょ」
「へ? セディー? それはちょっと話が飛躍し過ぎじゃない?」
「もう、セディーってば全然落ち着いてないわねぇ。それに、折角入ったのに半年ちょっとで行くのをやめるなんて勿体無いわ。第一、ネイトがどうしたいかを聞いてないじゃない」
「そう、ですね。わかりました。それじゃあ、休学にしようか? その、ネイトをスカウトしたっていう人は、もう今年度で卒業するんでしょ? それで、その人がいなくなった来年度から、また通えばいいんじゃない?」
「いや、なに言ってんのセディー? わたしにもう一度一年生をしろと?」
「? ネイトなら大丈夫だよ。僕が勉強教えるし。数ヶ月くらい休学していても、進級テストに合格すれば、復学したときに、ちゃんと今の学年として上がることができるから。お友達とも、離れることはないよ?」
そんな自信満々に答えられても・・・セディーがわたしのことを心配して言ってくれているのは凄くわかるけど、わたしはセディーみたく頭が良くないんだって。
わたしのことを買い被り過ぎだ。学校に通わずに進級テストに合格できる気は、全くしないし。
「セディーは少し黙っていなさい。お前が口を挟むと、話が進まん」
「お祖父様!」
「いいから少し黙っていなさい。それで、ネイトはどうするんだ?」
「わたしは、このまま学園に通うつもりです」
アルレ嬢は、レザンのことを気にしていましたし。もしかしたら、レザンがいなければ、もっと強引な勧誘手段を取られていたかもしれません。
それに、高位の貴族子女達の通う学校施設には軍属の人が紛れ込んでいるのは当然だとレザンは言っていた。ということは、転校したところで大して変わらないだろう。また同じように、軍属の方に勧誘されてしまう可能性がある。
だったら、このまま同じ学園に通い続けた方がいい。あの学園は生徒達が品行方正過ぎて、ちょっと絡まれたくらいで有名になってしまうけど、その代わりに凄く平和だから、結構気に入っている。殺伐としていないし。
今更別のところへ行って、一から人間関係を作り直すのも面倒だし。どこに行っても、一定の人達に絡まれるからなぁ。もう、その辺りは諦めることにした。かと言って、ただで絡まれてやるつもりもないけど。絡んで来た奴には、それなりの報復をすることも変わらないし。
「そうか。では、ネイトの好きなようにするといい」
15
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたの『番』は埋葬されました。
月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。
「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」
なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか?
「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」
そうでなければ――――
「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」
男は、わたしの言葉を強く否定します。
「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」
否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。
「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」
「お断りします」
この男の愛など、わたしは必要としていません。
そう断っても、彼は聞いてくれません。
だから――――実験を、してみることにしました。
一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。
「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」
そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。
「あなたの『番』は埋葬されました」、と。
設定はふわっと。
【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には
月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。
令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。
愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ――――
婚約は解消となった。
物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。
視点は、成金の商人視点。
設定はふわっと。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
【完結】彼が愛でるは、龍胆か水仙か……
月白ヤトヒコ
恋愛
お母様が亡くなり、お父様が再婚して新しい義母と義妹が出来て――――わたくしはいつしか使用人同然の扱いを受けていました。
それでも懸命に過ごし――――という、よくあるチープな物語みたいな状況に、わたくしはつい数ヶ月前までおりました。
けれど、これまた物語のような展開で、とある高位貴族のご子息とお知り合いになり、あれよあれよという間に、彼がわたくしの状況を、境遇を、待遇を全て変えてしまったのでした。
正義感が強くて、いつもみんなに囲まれて、人気者のあなた。わたくしを助けてくれた、王子様みたいな優しいあなた。彼と婚約できて、幸せになれると信じておりました。
けれど、いつの間にか彼は別の……以前のわたくしと似た境遇の女性と親しくしなっていました。
「……彼女は、以前の君のような境遇にある。彼女のつらさを、君ならわかってあげられる筈だ。だから、そんなことを言わないでくれ。俺は、彼女を助けてあげたいんだ。邪推はやめてくれ。俺は、君に失望したくない」
そう言われ、わたくしは我慢することにしました。
そんなわたくしへ、彼の元婚約者だった女性が問い掛けました。
「ねえ、あなた。彼が愛でるは、龍胆か水仙か……どちらだと思います?」と。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】私の婚約者はもう死んだので
miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」
結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。
そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。
彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。
これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる