虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「・・・で、話ってなんですか?」

 渋々彼女を見やると、

「では、改めまして。正式にご挨拶をするのは初めてですよね~。わたくし、キアラ・アルレと申します。実はわたくし、後釜を探しているのですよ~」

 間延びした声での自己紹介。初めて彼女の名前を知った。

「は? 後釜……?」

 なんだか、無性に嫌な予感がする。

「すみません、ちょっと意味がわからないので失礼します」

 と思わず後退ると、

「ふふっ、逃がしませんよ~。こんないい人材、逃がして堪るかっ!」

 ガシっ! と強く腕を掴まれた。

「ちょっ、放してくださいっ!?」

 引き剥がそうとするが、ぎゅ~! っと両手で腕が握られる。握力強っ!

「ヤだな、やっと捕まえたのに放すワケないじゃないですか~? あなたに目を付けること早数ヶ月、やっとこうして話を聞いてもらうことができるんですからっ!?」

 獲物を狙うかのごとくギラギラとした眼差しが、なんか怖いんですけどっ!?

「では、早速本題に入りましょうか~。……クロフトの三男が近くにいたら、悠長に話なんてしてられませんからね……」

 ぼそりと呟いた後半の言葉。クロフトの三男というのは、レザンのことだ。レザンをそういう風に呼ぶということは・・・

 嫌な予感がビシビシしている。彼女の体力と、わたしを掴む握力が、普通のお嬢さん離れしている理由も・・・

「聞きたくないですっ!?」
「まあまあ、そう仰らず。聞いてくださいよ~。実はですね~、わたくしは」

 わたしの言葉を無視して話し出すアルレ嬢。

「そこまでにして頂けますか」

 そこへ、低い声が響いた。

「げっ、クロフトの三男……」
「ハウウェルを放して頂けませんか」

 ちらりとレザンを見たアルレ嬢は、

「ネイサン・ハウウェル様! 諜報員見習いとして、わたくしの後釜になりませんか? この学園の貴族子女達の情報を集めましょう♪」

 わたしの腕を放さず、そしてレザンにも構わずに一息に言い切った。

「お断りしますっ!?」

 すかさず断る。

「え~、クロフトの三男様とつるんでいるんだから、ハウウェル様も軍人になるつもりじゃないんですか~? 楽しいですよ~? 諜報活動♪」
「絶っっ対に嫌ですっ!!!!」
「そんな~、ハウウェル様は絶対諜報部向いてますって~。ほら~? そんな綺麗なお顔しているのに大して女性に興味も無さそうで、可愛い女の子にもドライでなかなか辛辣ですし、ハニートラップに引っ掛かりそうもないですし、徒歩での逃げ足もそこそこ速いし、馬にも乗れて、腕っ節もそんなに弱くないですし、一対多数戦が得意で、帰国子女。更にオマケに、長男じゃないと来た! 少~し甘くて短気っぽいのが玉にきずですけど、ハウウェル様はすっごくすっごく条件がいいんですよ~? この学園に通っている貴族子女達の情報をちょ~っと集めて、ちょちょいとレポートにして報告するだけで、お金がたくさん貰えるんですよ~? ほら~、簡単に稼げる楽なお仕事ですよ~」

 諜報部所属(見習いという話ですが)というだけあって、わたしのことが割と調べられてるっ!?

「さっきから嫌だと言っています! 大体、諜報活動が楽で楽しいワケないじゃないですか! そうやって甘言で騙して、軍の暗部に人を引き摺り込もうとするのはやめてくださいっ!?!?」
「うむ。本人にやる気が無いと言っているのに、無理矢理勧誘するのは如何いかがなものです」
「チッ……駄目か」

__________


 ということで、彼女がネイサンをしつこく狙っていた理由でした。そして、やっと彼女の名前が決まりました。(笑)

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