虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「いい加減素直になるのは君の方だと思うが? 本当は誘われて嬉しいクセに」

 男の声も聞こえて来た。

「なーんか、勘違い野郎っぽいセリフもするな? よし、見に行ってみようぜ!」
「ちょっ、テッド!」

 わくわく顔で歩いて行くテッドの後を追うと、

「ですから、それはあなたの勘違いです。いい加減、もう彼女を誘うのをやめてください。迷惑していると言っているのですから」
「だからそれは、俺の気を引く為の駆け引きだろ? それに、いい加減にするのはあなたの方だ。俺と彼女の問題に口出しするのは、もうやめてくれないか。不愉快だ」
「ですからそれは、あなたに誘われて迷惑していて断りたいのに、あなたがしつこくて困っていると、彼女から相談を受けたからです」

 なにやら、男子の強引なお誘いに迷惑している女子生徒がいて、セルビア嬢がその間に入ってどうのこうの……という話らしい。声がちょっと大きくなって来ている。

「だからっ、それが彼女の駆け引きだと言っているだろうが! 俺の気を引きたいからそう言っているだけで、君に相談した手前、嫌がっている振りをしているんだよ!」

 苛立ったような男の声がする。

「おー、おー、びっくりするぐらいすっげー勘違い野郎だな? ちょっと顔見てみたくね?」

 勘違いというか……自分の都合のいいように曲解する、なんとも厄介な男のようだ。

「顔というか、この手の男はなにをするかわからんからな。様子は見ていた方がいいかもしれん。早まったことをしなければいいが……」

 野次馬根性丸出しのテッドに、鋭い目付きで声の方を見やるレザン。

 凛とした態度のセルビア嬢と、その後ろに隠れるようにして不安そうな顔をしている女子。そして、イラ付いた顔で二人を睨む男子生徒がいた。

「君の方こそ、誘って来る奴がいなくて彼女に嫉妬しているんじゃないのか? だから俺達の邪魔をするんだろ! 弟に次期当主の座を追われて婚約解消された男勝りの女なんか、誰も相手にしないからな!」
「わたしの事情は関係ありません。彼女は、あなたの行為に迷惑していて、付きまとうのをやめてほしいと主張しているだけです。平民女性だからと、誰もが貴族とお近付きになることを喜ぶと思っているなら、とんだ勘違いです」
「煩い黙れっ!!」

 嘲るような声に、冷静に返す声。その言葉に、激昂したような声がした。

「危ないかもしれん!」

 と、レザンがダッシュした。すると、ビシッ! となにかを強く叩くような音がして――――

「っ!」

 驚いた顔で、レザンの足が止まった。

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