虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「そうだなぁ・・・」

 学園の規則がユルくて驚いたこと。教師も生徒もみんなが穏やかなこと。喧嘩がほとんど起きなくて平和なこと。騎士学校時代の知り合いがいて驚いたことなどを話した。

「騎士学校時代の知り合いって?」
「ああ、レザン・クロフトって騎士学校時代の同級生で、三年間ずっと主席だった奴がね」
「クロフトは確か、軍人の家系じゃなかったかしら?」
「ええ。レザンのお父上の命令だそうで。軍閥以外の知り合いを作れって言われたらしくて、学園に来てたんですよ」
「あらあら、それはまた大変そうだこと」
「そうですねぇ。レザンは、学園では結構浮いているみたいですから」

 比較的血の気の多い野郎共の多かった騎士学校時代のノリだと、おっとりした子息令嬢達の多い学園では、そりゃあ浮く。
 浮き捲りだ。入学初期に絡まれて、無自覚に返り討ちにして以来、同級生間ではヤバい奴認定されてるし。アイツ、長身三白眼の強面こわもてな顔だし。笑えば爽やかな顔になるんだけど・・・
 面白ければ笑うだろうけど、常に愛想笑いができるような性格でもないし、脳筋だからなぁ。

 そして、同級生の友人はまだできていないらしく、休憩時間にはわたしにやたら絡んで来る。その絡み方が、ちょっとウザい。

「でも、乗馬クラブに入部してからは、他に友人ができたみたいでなによりです」
「っ、乗馬クラブって、ネイトも入ったの?」

 ぎょっとしたようなセディー。

「? うん。入れば、好きなときに乗馬ができるって聞いたからね」
「ぁ~……そっか、入ったんだ……」
「どうかしたの?」
「いや、どうって言うか……その……」

 珍しくセディーの渋い顔。

「ふふっ、実はね、ネイト。セディーも、乗馬クラブに入っていたのよ」

 クスクスと笑うおばあ様。

「おばあ様!」

 声を上げるセディーにちょっと驚いた。

「? セディー?」

 ぱちぱちと瞬いてセディーを見詰めると、

「・・・ああもうっ、いいですよ。人からバラされるくらいなら、自分で言いますから!」

 セディーはムッとしたように言葉を続けた。

「僕も・・・乗馬クラブに入っていたけど、全然乗馬が上達しなかったんだよ」

 そっぽを向いたその白い頬が、赤くなっている。どうやら恥ずかしいらしい。セディーのこんな顔は、初めて見た。ちょっと、可愛いかもしれない。

「ふふっ……」
「ああっ、ネイトに笑われたっ!? だから内緒にしておきたかったのにっ!!」

 がくりとへこんだ顔をするセディー。

「いや、ごめんセディー。ただ、セディーにも練習してもできないことがあるんだなぁって思って」
「もう、なに言ってるのかな? そんなの当たり前でしょ、ネイト」

 ツンと拗ねたセディーが可愛い。ああ、セディーにもまだ子供っぽいところがあったんだと思って、なんだか安心して・・・嬉しくなる。いつもいつも、セディーはわたしには余裕の笑顔ばかり見せていたから。

 実家にいた頃のセディーは、いつだってわたしを気遣って心配させないよう、大人びた笑顔を作って、「大丈夫だよ」って言ってばかりだった。両親に対しては、常に冷ややかな微笑みをまとって対応していた。

 そんなセディーが、わたしの前でおばあ様に子供扱いされて、恥ずかしがって、落ち込んで、顔を赤らめて拗ねた顔を見せている。

 それが、こんなにも嬉しい。

「いつもは、どの子に乗っていたの?」
「・・・一番大人しくて、のんびりした子だよ。乗馬初心者の女子生徒がよく乗っている子」

 ぼそぼそと呟くような答え。

「あの子じゃないと、他の馬はあんまり僕を乗せてくれないから・・・」
「そうなの?」

__________

 セディーは小さい頃からあんまり身体を動かして来なかったので、どんくさいですね。

 馬にも舐められる。(笑)

 でも代わりに、知力に全振りな感じ。
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