虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「はあっ!? なにが冗談なのよっ!?」
「いえ、本当にか弱い女性は、もっと引っ込み思案なのでは? 間違っても、自分から助けなさいよと言って騒いだりしないのでは? と、思っただけですので。お気になさらず」
「・・・」

 ムっとした顔がわたしを睨む。

 この分だと、アレは言わなくて済むようです。アレは・・・女性にかなりのダメージを食らわすことができますが、わたしの方もダメージを負いますからね。

「さて、ではこれでわたしは失礼します」
「あっ待ちなさいよっ!」
「わたしは今から、ランニングがてら走って帰りますが? 少なくとも、キロ単位で」

 馬車と待ち合わせ場所まで、眠気覚ましにランニングは丁度いいだろう。

「え?」

 ぽかんとした表情の彼女を捨て置き、剣の包みを解いて腰に剣をく。慣れた剣の重さに、少し落ち着く。

 やっぱり、外出時に剣は必須ですよね。

 いつ何時、どんなことに巻き込まれるかわからないし。仮令たとえどこぞに置き去り・・・・にされた・・・・としても、武器と金銭と足があれば、ちゃんと家に辿り着けるだろう。

 さて、走りますか。

「ちょっ、ネイサン様っ!?」

 なんか呼ぶ声が聞こえたような気がするけど、きっと気のせいだ。わたしはなにも聞こえなかった。

 さあ、行こう!

 と、馬車の停まる道を駆ける。

 学園から数キロ離れた場所……ほぼ街を抜けたところで、うちの馬車と待ち合わせをしている。
 渋滞を避けて早く帰ろうと思ったら、学園で待ってないで街を出ちゃった方が早いんだよね。

 無論、普通のそれなりの家を持つ貴族子女達は、呉々も真似しちゃいけません。財政難の貴族家なら仕方ない……かもしれないけど。

 これはわたしが次男で、尚且なおかつ、そこそこ剣を扱えるからできることだ。そうじゃなければ、軍属だとか、レザンみたいにやたら強くて腕に覚えのある人だけだな。

 わたしは……数人で囲まれても、負けない自信はある。乱戦は割と得意だし、自分以外全員敵という状況にも慣れている。
 騎士学校では、馬鹿共に何度も囲まれたことがあるから。むしろ、下手に味方がいるよりも、やり易いかもしれない。複数で囲まれた場合、敵に同士討ちをさせるのも得意だし。

 ・・・まぁ、賊に遭遇しても勝てる筈だ! なんて、自分を過信することもないけど。わたし、自分の実力はちゃんとわきまえているし、逃げるのも得意だから。

 伊達に騎士学校時代、勝負を挑んで追い掛けて来る脳筋共から逃げ捲っていたワケじゃない。ぶっちゃけ、奴らから逃げるだけでも、なかなか鍛えられると思う。
 待ち伏せとか尾行とか、集団で包囲だとか、マジ勘弁しろだよ。ある意味、わたしをボコろうと複数人で囲んで来たような馬鹿共よりも、質が悪いと思う。
 笑いながら、「勝負しろ!」と追い掛けて来る脳筋共、マジコワい・・・
 しかも、勝負の順番を決める為、その場でバトルとかし始めるし。もう、脳筋共だけで延々とバトってればいいのに、他人を巻き込むしさ?

 それは置いといて。

 学園生徒の帰省時には、街道沿いのパトロールもされている筈だから、男なら徒歩で帰る奴も珍しくないらしい。
 まぁ、家が本当に遠くても徒歩で帰るのは、平民の生徒が多いと聞いたけど。

 わたしみたいに……というか、渋滞を嫌って、少し離れた位置で馬車と待ち合わせをしている貴族の男子生徒もいないこともないという。少数派だそうだけど。

 まだ薄暗い、しんとした街の中――――
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