虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
102 / 673

85

しおりを挟む

「はあっ!? なにが冗談なのよっ!?」
「いえ、本当にか弱い女性は、もっと引っ込み思案なのでは? 間違っても、自分から助けなさいよと言って騒いだりしないのでは? と、思っただけですので。お気になさらず」
「・・・」

 ムっとした顔がわたしを睨む。

 この分だと、アレは言わなくて済むようです。アレは・・・女性にかなりのダメージを食らわすことができますが、わたしの方もダメージを負いますからね。

「さて、ではこれでわたしは失礼します」
「あっ待ちなさいよっ!」
「わたしは今から、ランニングがてら走って帰りますが? 少なくとも、キロ単位で」

 馬車と待ち合わせ場所まで、眠気覚ましにランニングは丁度いいだろう。

「え?」

 ぽかんとした表情の彼女を捨て置き、剣の包みを解いて腰に剣をく。慣れた剣の重さに、少し落ち着く。

 やっぱり、外出時に剣は必須ですよね。

 いつ何時、どんなことに巻き込まれるかわからないし。仮令たとえどこぞに置き去り・・・・にされた・・・・としても、武器と金銭と足があれば、ちゃんと家に辿り着けるだろう。

 さて、走りますか。

「ちょっ、ネイサン様っ!?」

 なんか呼ぶ声が聞こえたような気がするけど、きっと気のせいだ。わたしはなにも聞こえなかった。

 さあ、行こう!

 と、馬車の停まる道を駆ける。

 学園から数キロ離れた場所……ほぼ街を抜けたところで、うちの馬車と待ち合わせをしている。
 渋滞を避けて早く帰ろうと思ったら、学園で待ってないで街を出ちゃった方が早いんだよね。

 無論、普通のそれなりの家を持つ貴族子女達は、呉々も真似しちゃいけません。財政難の貴族家なら仕方ない……かもしれないけど。

 これはわたしが次男で、尚且なおかつ、そこそこ剣を扱えるからできることだ。そうじゃなければ、軍属だとか、レザンみたいにやたら強くて腕に覚えのある人だけだな。

 わたしは……数人で囲まれても、負けない自信はある。乱戦は割と得意だし、自分以外全員敵という状況にも慣れている。
 騎士学校では、馬鹿共に何度も囲まれたことがあるから。むしろ、下手に味方がいるよりも、やり易いかもしれない。複数で囲まれた場合、敵に同士討ちをさせるのも得意だし。

 ・・・まぁ、賊に遭遇しても勝てる筈だ! なんて、自分を過信することもないけど。わたし、自分の実力はちゃんとわきまえているし、逃げるのも得意だから。

 伊達に騎士学校時代、勝負を挑んで追い掛けて来る脳筋共から逃げ捲っていたワケじゃない。ぶっちゃけ、奴らから逃げるだけでも、なかなか鍛えられると思う。
 待ち伏せとか尾行とか、集団で包囲だとか、マジ勘弁しろだよ。ある意味、わたしをボコろうと複数人で囲んで来たような馬鹿共よりも、質が悪いと思う。
 笑いながら、「勝負しろ!」と追い掛けて来る脳筋共、マジコワい・・・
 しかも、勝負の順番を決める為、その場でバトルとかし始めるし。もう、脳筋共だけで延々とバトってればいいのに、他人を巻き込むしさ?

 それは置いといて。

 学園生徒の帰省時には、街道沿いのパトロールもされている筈だから、男なら徒歩で帰る奴も珍しくないらしい。
 まぁ、家が本当に遠くても徒歩で帰るのは、平民の生徒が多いと聞いたけど。

 わたしみたいに……というか、渋滞を嫌って、少し離れた位置で馬車と待ち合わせをしている貴族の男子生徒もいないこともないという。少数派だそうだけど。

 まだ薄暗い、しんとした街の中――――
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。

haru.
恋愛
「今ここに、17年間偽られ続けた真実を証すッ! ここにいるアクリアーナは本物の王女ではないッ! 妖精の取り替え子によって偽られた偽物だッ!」 17年間マルヴィーア王国の第二王女として生きてきた人生を否定された。王家が主催する夜会会場で、自分の婚約者と本物の王女だと名乗る少女に…… 家族とは見た目も才能も似ておらず、肩身の狭い思いをしてきたアクリアーナ。 王女から平民に身を落とす事になり、辛い人生が待ち受けていると思っていたが、王族として恥じぬように生きてきた17年間の足掻きは無駄ではなかった。 「あれ? 何だか王女でいるよりも楽しいかもしれない!」 自身の努力でチートを手に入れていたアクリアーナ。 そんな王女を秘かに想っていた騎士団の第三師団長が騎士を辞めて私を追ってきた!? アクリアーナの知らぬ所で彼女を愛し、幸せを願う者達。 王女ではなくなった筈が染み付いた王族としての秩序で困っている民を見捨てられないアクリアーナの人生は一体どうなる!? ※ ヨーロッパの伝承にある取り替え子(チェンジリング)とは違う話となっております。 異世界の創作小説として見て頂けたら嬉しいです。 (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ペコ

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...