93 / 673
76
しおりを挟む「すみません、副部長! それでは失礼」
と、名乗りもしない不躾な女子生徒から逃げ、わたしを呼んでくれた副部長の方へ向かう。
まぁ、乗馬クラブは基本、参加は自由なのでこんな風に呼び付けられることは無いそうなんですが。
「呼び出しありがとうございます、セルビア嬢。助かりました」
わたしを呼んだ声の主にお礼を言うと、
「いえ、お困りのようでしたので。ですが……まだこちらを見ていますね、彼女。差し出がましいかと思いますが、もう少しお話でもしていた方がいいかもしれません。勿論、ハウウェル様が宜しければ、ですけど」
相変わらずのキリっとした表情。それでいて、気遣いが利いています。
「差し出がましいなんてとんでもないです。・・・では、セルビア嬢。あの方は、乗馬クラブには?」
乗馬クラブの部員なら、今後も馬場で絡まれる可能性がある。その場合は、早朝に時間をずらして馬に乗るしかない。
まぁ、騎士学校は偶に朝の四時とか五時くらいから、抜き打ちの早朝訓練とかあったし。実は、今もあんまり朝は得意じゃないけど、七時くらいならまだなんとか・・・イケる、かな? ああ、でも馬に乗っていられる時間は短くなりそうだなぁ。
「大丈夫ですよ。彼女は部員ではありませんので」
「そうですか。それは助かります」
朝にバタバタするのは、やっぱり大変そうだし。放課後にはゆっくりと乗馬ができる。
「ええ。ですが・・・ハウウェル様は、彼女には気を付けた方が宜しいかと」
セルビア嬢の表情が曇ります。
「そうですね。失礼ですが、セルビア嬢は彼女とはお知り合いで?」
「知り合い、と言いますか・・・彼女はある意味有名ではありますね」
この口振りからすると、十中八九は良くない意味での有名なんだろうなぁ。まぁ、あの不躾さからして、お察しという感じではあるけど。
「あの方は高等部三年生の、裕福な平民の方なのですが・・・」
セルビア嬢の口が重いですね。
「貴族の嫡男の方々に、よく声を掛けている方です。どうも彼女は婚約者がいないらしく、学園で良い縁を探している、とのことですね」
「それはまた・・・」
なんとも言えないな。
貴族に嫁入りしようと奮闘している、と取れなくもない。非常に好意的な見方をすれば、だけど。身も蓋も無い言い方をすれば、節操無しと言ったところだろうか? おそらく、まともに相手する貴族子息は少ないだろうなぁ。
う~ん……財政の厳しい貴族家なら、嫁入りを考えるくらいでしょうか? でも、あの不躾な態度と、嫡男であれば婚約者がいようがいまいが、それこそ誰彼構わず声を掛けているというのなら、それも厳しいかもしれませんね。
とりあえず、わたし的にはアレは無しですけど。どこぞの物好きなら、ワンチャンあるんじゃないですかね? 顔はそれなりでしたし。
まぁ、スピカの方が数百倍は可愛いけどねっ!
「それと、これはあくまで噂なのですが……」
21
お気に入りに追加
749
あなたにおすすめの小説

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら
冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。
アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。
国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。
ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。
エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる