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「こちらこそ、宜しくお願いします。……でも、わたしだって負けませんので……」

 挨拶の後にぼそりと、セルビア嬢がなにかを呟いたような気がした。

「はい? えっと、すみません。セルビア嬢、声が小さくて聞き取れなくて」

 聞き返すと、

「いえ、なんでもありません。お気になさらず。そして、これは独り言なのですが、早朝や夕方などの人の少ない時間帯であれば、全力で走らせることも可能です。テスト期間などは、特に狙い目だったりするのです。まぁ、テスト勉強に余裕があればの話ですが」

 セルビア嬢は首を振ってそっぽを向き、独り言・・・を言って聞かせてくれた。

「成る程。人のいない時間帯、か。セルビア先輩、教えてくださってありがとうございます」
「わたしは独り言を言っただけです」

 クスリとイタズラっぽい笑みが、キリっとした表情を和らげる。

 さっきは叱られてしまった(レザンのせいで)けど、実は案外セルビア嬢はこっちの方が地のような気がする。

 こうしてわたしとレザンは、乗馬クラブに入部した。

♘*♞*♘*♞*♘*♞*♘

 乗馬クラブに入部して早数日。

 わたしとレザンは・・・

「乗馬のこつを教えてくれないか?」
「暴れ馬を手懐ける方法は?」
「どうしたら馬に舐められなくなるだろう?」

 という男子生徒達。

「馬が怖くて……」
「わたくしにも教えてくださいな」
「まぁ、素敵なリボンですね」
「今度、お茶でも如何かしら?」

 という女子生徒達に、囲まれています。

 はい、状況がおかしいですね。解せませんよ?

 なぜレザンは男子生徒に囲まれているのでしょうか? いえ、確かに。わたし以外の友人を作れとは言った。それについては、いい。

 けれど、解せないのは……これだ。

「その、宜しければ二人乗りで教えて頂けませんか?」
「あ、ズルいですわ! それでしたらわたくしも」
「そんな、彼女の迷惑も考えなさいな」

 はい、解せませんね。

 なぜにわたしは、女子生徒だけに取り囲まれているのでしょうか?

 しかも、ちょっと……なにを言っているのかわからない女子生徒が交ざっています。

 いえ、言っていること自体はわかりますが、それ・・を言われる意味がわかりません。

「その、二人乗りはお断り致します。どうしてもと言うのでしたら、婚約者の方へお願いしては如何でしょうか?」

 はい。婚約者でも身内でもない女性と、二人乗りなんかできません。切羽詰まったような緊急事態以外では、となりますが。

 というかわたしは、馬に二人乗りをするなら、スピカを乗せてあげたいんだけど?

「実はわたくし……横座りではなくて、ちゃんとした乗馬がしたいのですわ」
「女が乗馬をするだなんて、と嫌な顔をされてしまわないかしら?」
「理解の無い殿方もいますものね」

 憂鬱そうな溜め息を吐いて訴える女子生徒達。

「そうですわ。サロンで一緒に、お茶でもしながらお話しませんこと?」

 にこりと、上級生の彼女がわたしに微笑む。

「いえ、わたしは馬に乗りに来たので」

 あと、婚約者でもないし身内でもない上、親しくもない女性達に囲まれてお茶なんてしたくない。この人達とは、ほぼ初対面だと思う。名前だって知らない。

「まぁ、お断りされると悲しいですわ」

 悲しげな表情の上級生の女子。けれど、その瞳の奥に冷ややかな色が見え始める。
 どうやらわたしは、彼女の気を損ねてしまったらしい。同時に、他の女子生徒の顔が気まずそうに曇って口を閉じる。とそこへ、

「あなた方、そこまでにしておきなさい。ネイサン・ハウウェル子爵令息・・も、困っておいでですよ」

 涼やかな声がわたしのフルネームを言って割り入り、令嬢達がぱちぱちと瞬いてわたしを見上げる。

「ぇ?」

 ぽかんと驚いたような声が上がる。

「乗馬でしたら、わたしが教えて差し上げます。順番に、こちらへどうぞ」

 乗馬服のセルビア嬢が現れ、キリっとした表情で女子生徒達へ手を差し出す。

「そ、その……困らせてしまってごめんなさい」

 さっと、わたしの側を離れるときに、最初に二人乗りで教えてほしいと言った女子生徒が申し訳なさそうに小さく謝った。

 ・・・どういうこと?
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