虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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番外。セディー視点16

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 そんなこんなで僕は――――

 クロシェン家の方々に感謝と若干の妬みの感情を交えつつ、両親のどうしようもなさとネイトへの罪悪感とを抱えて、ネイトと会えないまま四年の月日が経った。

 その間に僕は、段々と体調を崩すことが少なくなって、学校に通うことになった。

 家にいるより、学校にいる方が楽に呼吸ができるような気がした。寮には入れさせてもらえなくて、実家から通っていたけど。

 そして――――父と母がなにかしら余計なことをしたらしく、ネイトがうちに帰って来ることになった。

 ネイトに会えること自体は嬉しい。

 けれど・・・

 父と母が、ネイトになにかしないかが心配だ。

 お祖父様とおばあ様にお願いして、あの二人には釘を刺してもらうことにする。

 まぁ、僕もあの頃よりは大きくなったから、以前よりはネイトを守れるとは思うけど。

 そんな風にして、ネイトが帰って来ることを待ちわびた。同時に、ネイトに嫌われたらどうしよう・・・とも思いながら。

 ネイトが帰って来た日――――

 久し振りに会ったネイトは当たり前だけど、六歳の頃よりも大きくなっていて、小さい頃よりも美人度が増していた!

 髪の毛も長くて、一瞬女の子かと思ったよ。僕の弟は美人で可愛い!

 ネイトは以前より……家にいたときよりも柔らかい表情をするようになっていた。
 そのこと自体はとても嬉しかったんだけど……でもそれが、クロシェン家の人達のお陰だと思うと、なんだか少し複雑な気持ちになった。

 ネイトに柔らかい表情をさせる……四年間をネイトと一緒に過ごしたというロイ君とスピカちゃんが、酷く羨ましかった。

 それに・・・ネイトに嫌われていなかったようで、滅茶苦茶ほっとしたのは内緒だ。

 それからの二年間は、楽しかったなぁ。ネイトと同じ家で暮らせて。

 生憎、僕は学校に通っていたので、平日はあんまり一緒に過ごせなかったけど。

 家ではネイトと過ごせないから、学校が休みのときには一緒にお祖父様の家に行ってネイトと乗馬をしたりして――――

 僕が、かなりどんくさいことが判明した。

 まず、あぶみに足を引っ掛けて馬に上がることができなかった。台に乗って、馬に上がった。並足をさせるのも難しかった。
 翌日は筋肉痛で、身体がガタガタになった。学校が大変だった。

 ネイトに教えてもらったけど、乗馬は難しかった。賢くて気立ての優しい、のんびりした穏やかな子じゃないと、まず乗せてもらえない。

 一応、下手でも貴族は馬に乗れた方がいいから、頑張ろうと思う。せめて、駆け足くらいはできるようになりたい。

 ネイトが剣を振っているのを見て、僕もやってみた。本物の剣は危ないので、木剣で練習してみた。重くて、腕がぷるぷるした。構えを維持するのはとても難しい。
 翌日は、腕が筋肉痛でつらかった。荷物を持つのが大変だった。

 乗馬も剣も、ネイトは上手で凄い。僕の弟は、とてもかっこいい!

 僕は・・・運動神経が残念なようだ。別に、悲しくなんかない。うん。悲しくないもん。

 そんな風に一緒に過ごしながら、ネイトも僕と同じ学校に入る為に勉強していたのに――――

 ネイトは、別の学校に入れられた。

 生徒を外へ出さないことで有名な、騎士学校へと。お祖父様が、入学を取り消せないか学校側へ聞いてみたそうだけど、あの学校はなかなか特殊なようで、それも難しいとのこと。

 お祖父様とおばあ様はこれにも相当怒っていたけど、両親は・・・やはり、なにが悪いのか、わかっていないようだった。

 それを機に、僕も寮に入って家を出ることにした。

 そして、ネイトが騎士学校に通っている三年間は、年に数度しかネイトと会うことができなかった。

 手紙のやり取りはしていたけど、あの騎士学校は本当に厳しくて、手紙が検閲されるというので、当たり障りのないことしか書けなかった。

 そんな騎士学校をようやく卒業して――――

 両親のせいで酷い目に遭わされて、たくさんたくさん我慢して苦労して来たネイトが、

「父を追い落としてほしい」

 と、真剣な顔で僕にお願いして来たんだから・・・

 叶えてあげなきゃ。

 どんなことをしたって。

 僕だっていい加減、あの人達をどうにかしないといけないと思っていたことだし。

 この先なにを言われようが、僕は平気だ。

 きっと、ネイトよりも僕の方が薄情だから。

 多分、僕はネイト程優しくない。

 害になる父を追い落とすことに、罪悪感なんか湧かない。三年以内には、お祖父様の示した条件をクリアしたいと思う。

__________

 次からネイサン視点に戻ります。

 セディー視点は、思っていたよりも長くなりました。

 自分で思っていたよりも、ブラコン・シスコンの仲良しな兄弟姉妹を書くのが好きだったみたいです。
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