71 / 673
番外。セディー視点14
しおりを挟むそれから――――
あっという間に、ネイトの隣国への留学が決まった。
なんでも、ネイトがこの家にまた暮らすようになったこと……母がお祖父様の家から無理矢理ネイトを連れ出したときのようなことを防ぐ為に、わざわざ隣国への留学なのだそうだ。
隣国の、おばあ様の親戚のクロシェン伯爵家にネイトを預けるのだと聞いた。
物理的に距離があれば、簡単に行き来ができなければ、ネイトを連れ戻すことが難しくなるから、とのこと。
おばあ様の親戚は、安心できる優しい人達をちゃんと選んだから、ネイトが酷い目に遭うことはない、と。
きっと、ネイトを大切に育ててくれる、と・・・
それを聞いて、本当に情けなくなった。
お祖父様とおばあ様にとって、うちは……
両親は、安心してネイトを預けられなくて、ネイトに優しくなくて、ネイトを酷い目に遭わせるかもしれなくて、ネイトを大切にしない人達なのだと思われているということなんだから。
そして、本当にその通りなんだから、なんとも言えない。両親は、ネイトに優しくない。
ネイトと離れるのは嫌だけど・・・
納得、するしかないじゃないか。
その方が、ネイトの為になるなら。
僕がもっと大きかったら、もっと丈夫だったら、こんなに寝込まなければ、ネイトをちゃんと守れたのかな?
なんて・・・益体もないことを考えてしまう。
あぁ、早く大きくなりたい、と思った。
**********
ネイトが隣国に出発する日。
向こうで必要になる荷物は、お祖父様とおばあ様が用意して荷作りを済ませてくれたそうだ。
つくづく、なんとも言えない。
ネイトになにもしてあげられないから、せめてと思ってお菓子を用意した。日持ちのする……ネイトの好きな焼き菓子を、
「道中でおやつにしてね」
と渡した。
「ありがとう、兄上……セディー」
ネイトの寂しそうな、少しふてくされたような、不安そうな顔に胸が痛む。
「元気でね、ネイト」
暫く会えないと思うと、寂しくて寂しくて涙が出そうだったけど、我慢して笑顔を作った。
「セディーも、元気でね」
「っ・・・うん!」
ネイトは一人で隣国に行く直前で、不安で堪らないだろうに、僕の心配をしてくれるなんて・・・なんていい子なんだろうっ!?
お祖父様とおばあ様が名残惜しそうに別れを告げ、ネイトが馬車に乗った。
両親は一応ネイトを見送りはしたが、結局は馬車が出発するまで、一言もネイトに声を掛けなかった。
ネイトは、そんな両親を少し気にしていたけど・・・なにも言わないで、諦めた顔をして行ってしまった。
小さくなって行く馬車を見送って――――
さっさと家に入ってしまった両親に、お祖父様もおばあ様もなにも言わなかった。
**********
10
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】あなたの『番』は埋葬されました。
月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。
「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」
なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか?
「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」
そうでなければ――――
「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」
男は、わたしの言葉を強く否定します。
「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」
否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。
「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」
「お断りします」
この男の愛など、わたしは必要としていません。
そう断っても、彼は聞いてくれません。
だから――――実験を、してみることにしました。
一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。
「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」
そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。
「あなたの『番』は埋葬されました」、と。
設定はふわっと。
【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には
月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。
令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。
愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ――――
婚約は解消となった。
物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。
視点は、成金の商人視点。
設定はふわっと。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
【完結】彼が愛でるは、龍胆か水仙か……
月白ヤトヒコ
恋愛
お母様が亡くなり、お父様が再婚して新しい義母と義妹が出来て――――わたくしはいつしか使用人同然の扱いを受けていました。
それでも懸命に過ごし――――という、よくあるチープな物語みたいな状況に、わたくしはつい数ヶ月前までおりました。
けれど、これまた物語のような展開で、とある高位貴族のご子息とお知り合いになり、あれよあれよという間に、彼がわたくしの状況を、境遇を、待遇を全て変えてしまったのでした。
正義感が強くて、いつもみんなに囲まれて、人気者のあなた。わたくしを助けてくれた、王子様みたいな優しいあなた。彼と婚約できて、幸せになれると信じておりました。
けれど、いつの間にか彼は別の……以前のわたくしと似た境遇の女性と親しくしなっていました。
「……彼女は、以前の君のような境遇にある。彼女のつらさを、君ならわかってあげられる筈だ。だから、そんなことを言わないでくれ。俺は、彼女を助けてあげたいんだ。邪推はやめてくれ。俺は、君に失望したくない」
そう言われ、わたくしは我慢することにしました。
そんなわたくしへ、彼の元婚約者だった女性が問い掛けました。
「ねえ、あなた。彼が愛でるは、龍胆か水仙か……どちらだと思います?」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる