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番外。セディー視点12

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 ネイトが夕食にも現れないと聞いて、さっと血の気が引いた。

 ネイトの部屋に行ってもネイトがいなくて、ネイトの乳母の姿も見当たらなかった。

 侍女達に言って家の中をあちこち探してもらって、庭も、馬車の中も全部見回ってもらったのに、誰もネイトを見付けられなかった。

 焦りながら家令に言って、急いで花畑を見に行ってもらった。

 結局、ネイトは本当に花畑に置き去りにされていたらしい。

 夜中に帰って来て――――

 ネイトが無事だったことを喜んだのも束の間。

 父が、ネイトを怒鳴って殴ったのを見てしまった。

 更には、ネイトを庇って抗議したネイトの乳母をその場でくびにした。

「父上! 自分達がっ……僕のせいで、ネイトを置き去りにしたクセにっ!?」

 悪いのは、明らかに僕達だ。

「・・・」

 父はなにも言わず、僕をチラリと一瞥して去って行った。

「……ネイト、ごめん……」

 ネイトと、その乳母の彼女には、幾ら謝っても謝り切れない。

 殴られて呆然としているネイトをぎゅっと抱き締めると、なんだか無性に泣けて来て……泣きながらネイトに謝った。

「ネイトが無事で良かった。置き去りにしてごめんね。怖かった、よね……本当に、ごめん」

 馬車が出る前に、なんとしてもネイトを探していれば? 僕がネイトに付いていてあげれば? 雨が降らなければ? 行く場所を変えていたら?

 いや、そもそも・・・

「……ピクニックなんて、行かなければよかった……」

 僕の体調が良くなければ、出掛けるなんて話にならなかっただろう。体調が良かったことを、こんなに悔やんだことはない。

「……体調が悪ければよかったのに……」

 それから、ネイトをお風呂に入れるよう侍女達に頼んで――――

 ネイトの乳母と、をした。

 ネイトの面倒を看てくれたこと、ずっとネイトに付いててくれたこと、ネイトを庇ってくれたことに感謝して・・・

「お祖父様とおばあ様に、伝えてほしいんだ。ネイトを・・・この家から連れ出してください、って」

 お願い・・・をした。

 彼女がすぐに頷いてくれて、酷くほっとした。

 ネイトと彼女に何事もなく、無事で済んで帰って来れたのは、単に運が良かっただけだ。
 夜道を子供と女性だけで、しかも徒歩で歩くなんて、誰が聞いたって危険だと思うだろう。

 馬鹿じゃないか、と言われる筈だ。

 なのに、両親あの二人はネイトのことを心配もしなかった。

 『家族』なら心配して、悪かったと、もう二度とこんなことはしないと、ネイトに謝るべきなのに。

 未だに、両親この二人はネイトに謝らない。

 反省をしていない。

 また、こんな・・・こと・・が、あるかもしれない。

 そんなの、冗談じゃない。

 この親は、駄目だ。反省するきざしも全くない。

 これが、こんなのが『家族』だと、『親』だと言えるだろうか?

 うちにいたら、ネイトが危ないと思った。

 だから、僕は――――

**********
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