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番外。セディー視点7
しおりを挟むネイトが同じ家の中にいるのに、すっごく会いたいと思っているのに、会えない。会わせてもらえない。
その状況に、ぶすくれているときだった。
母が部屋に戻って行ってから暫くして、とてとてと軽い足音がした。
それから、部屋のドアが開いて――――
ひょっこりと金茶の頭が覗いた。
「っ!? ネイ、ト?」
「? なぁに?」
きょとんと首を傾げて、ぽてぽてと部屋に入って来るネイトは・・・当たり前だけど、自分の足で歩いてベッドの、僕の近くに来てくれた。
「・・・ね、ネイトが、自分で歩いてるっ!」
あの、小さくてふにゃふにゃで、誰かに抱っこしてもらわないと自分で移動もできなかった赤ちゃんのネイトがっ!?
「? ねーと、もうじぶんであゆけゆよ? にぃに、だぁれ?」
薄茶のつぶらな瞳が、不思議そうに僕を見上げる。
「っ! にぃにっ!?」
ヤバいっ……なにこの胸の高鳴りはっ!?!?
ネイトと会ったら、言いたいことや一緒にやりたいことがたくさんあったのに、なんか今ので全部吹っ飛んだっ!?
「? にぃに?」
にぃに呼び再びっ!!
「っ!?!?」
一気に顔が熱くなるのがわかる。いや、ちょっと待ってよ? 落ち着こうか。深呼吸。ああ、でも熱が出そうっ……
ああ、えっと、なんだっけ? 確か、「にぃに、だぁれ?」って言われたんだったや。
「・・・ぼ、僕はね、セディックだよ」
「しぇー、じーく?」
舌っ足らずな声が、僕の名前をちゃんと発音できない。でもそれも可愛いっ!!
「っ……ネイトには、ちょっと難しかったかな? セディーでいいよ。みんなそう呼ぶから」
「しぇ、じー?」
「惜しい、セディー」
「しぇーでぃー?」
「うん。そう、上手だね。セディーだよ♪」
「あのね、ねーとね、しぇーでぃーにおやすゅみいいにきたの。ばぁやがね、おやしゅみしてって」
ああもうっ、僕の弟はなんて可愛いんだろうっ!?
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「あ……そっか。ネイトは、もう寝る時間か。うん。おやすみなさい……」
すごく残念だ。すっと、頭が冷える。
「ばいばい、またね」
「っ!?」
そう、だ。また会えるんだっ!!
「うん! またね、ネイト♪」
こんな風にして、僕とネイトの交流が始まった。
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