虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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番外。セディー視点6

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 ベッドから降りて、部屋から出て、ぎゃーぎゃーと聴こえる声の方へ向かった。

「や~っ!! ばぁば~っ!? ばぁや~っ!?」

 そんな悲鳴のような泣き声・・・に混じって、怒鳴るような声もする。

「なんで泣き止まないのっ!? ネイトのお母様はわたくしでしょっ!! お義母様を呼ぶのはやめなさいって言ってるでしょっ!?!?」

 真っ赤な顔で嫌々と暴れるネイトを抱き……いや、捕まえながら、目を吊り上げて怒る母の姿。

「母上? なんで、ネイトに怒っているの?」

 掛けた声は、少し震えていたかもしれない。

「っ! セディー……ネイトが、泣き止んでくれないの。わたくし、もうどうしていいかわからなくて……ごめんなさいね、セディー。ネイトが煩かったわね」

 驚いたように僕を見下ろすブラウン。そして、ネイトに怒っていた声が柔らかくなった。

 違う。僕が聞きたいのは、そんなことじゃない。

「なんで、ネイトがいるの?」
「ああ、今日からまたネイトも一緒に暮らすのよ。でも、ネイトが嫌がって聞かないのよ。本当に困った子ね。……もういいわ。ネイトの面倒を見なさい」

 母は溜息を吐いて、

「かしこまりました」

 どこか冷ややかに聞こえる返事をした見慣れぬ……母よりも年上に見える女の人に、押し付けるようにネイトを渡した。

「ばぁや~」

 ぎゃーぎゃー泣いていたネイトが、ひくひくとしながらその女の人の腕にしがみ付くようにして、大人しく収まる。

 ネイトが懐いているみたいだ。誰なんだろう?

「・・・行きますよ、セディー」

 暴れるのをやめて、けれど知らない女の人の腕の中でひくひくと泣いているネイトを冷たい目で見やると、母は僕の手を引いて歩き出した。

「母上! ネイトはっ……」
「セディーは気にしなくてもいいの。静かになったんだから、もういいでしょ」

 僕は、不機嫌な母に引っ張られるようにして部屋に戻された。

 ――――ネイトと一緒に暮らせるというのに、なんだかあんまり嬉しく思えない。

 それから、ネイトは家の中にいるのに、会わせてもらえなかった。

 ネイトのことを聞くと、母が不機嫌になる。

 ネイトに会わせてくれないのは、『僕の為』なのだと言って・・・

「ネイトはしょっちゅう泣いて煩いじゃない。セディーの邪魔になるでしょ?」

 と、笑顔でネイトを邪魔者扱いした。

 どうやら母は、泣いて嫌がるネイトをお祖父様の家から無理矢理連れ出したらしい。夜に侍女達がこっそりと教えてくれた。ネイトが大泣きして可哀想だった、と。
 しかも母は、ネイトが自分に懐かないからと大層怒っているとのこと。

 ネイトが母を怖がるのも、無理はないと思う。自分に懐けと、あんな怖い顔で怒鳴られたら・・・

 後から知ったのは、母がネイトの面倒を見るようにと言い付けたのがお祖父様の家の使用人で、向こうでずっとネイトの乳母をしていた人だってこと。
 この家でも引き続き、ネイトの乳母をしてくれると聞いて、僕はなんだかとても安心した……安心、してしまった。

 そして彼女は、母に嫌われているようで、なかなか会う機会がなかった。

__________

 ネイサンが2歳のときは『ばぁば』が祖母のことで、『ばぁや』は乳母のことです。
 祖父は『じぃじ』ですね。
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