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しおりを挟むつくづく思った。この人に長年張り付かれていたセディーは……本当に大変だっただろうなぁ。
「では、もう用件が無いようなので失礼します」
泣き喚く母を見下ろし、踵を返す。
諦念と疲労の色が滲む家令に少々申し訳なく思いつつ、母を外出させないよう言い付け、もし件の縁談相手である母の姪や親類などが家に来ても中には入れず、『縁談の話は無かったことに』と伝えてそのまま帰すように言い置き、来たとき同様馬に乗って祖父母の家に戻る。
走りながら、少し頭を冷やす。
そして、おばあ様へと報告。
「おばあ様」
「あら、お帰りなさいネイト。その顔だと、よくないことがあったみたいですね」
よくないことというか、なんというか、普通に非常識なことだと思う。
「・・・母が、無断でわたしに縁談を用意していたみたいです」
呆れ混じりの溜め息を吐きながら告げる。
「・・・そうですか。わかりました」
おばあ様の、心配そうだった表情が一変。雰囲気が一気にすっと冷える。
「あの馬鹿嫁は、相変わらずなにもわかっていないようですね」
唇が薄い笑みの形に吊り上がるが、眇められたペリドットのその瞳は全く笑っていない。ちょっと、おばあ様の威圧感が凄いです。あと、普通にあの人を馬鹿呼ばわりしましたね。間違っていませんけど。
・・・もしかしたら、あの人にはずっと、わたしがこんな風に見えていたのかもしない。
まぁ、だからなんだという話だけど。
わたしは、小さな頃からおばあ様にそっくりだとよく言われて来たが、おばあ様本人ではない。
そんな当然のことを、あの人は理解していない。理解しなかった。あの人は幼かったわたしを、おばあ様と同一視して恐れ、嫌い、疎み、遠ざけて来たのだろう。
結局のところ、あの人がわたしを疎んだのはあの人自身の問題だ。
確かに、小さな頃には『どうしてわたしを好きになってくれないの? なんで嫌うの?』という目であの人を見ていたかもしれない。けれどそれは、あの人を責める感情があったワケではないし、そんなつもりは無かった。ただただ悲しかっただけだ。
自分を嫌っている相手に好かれたいと思い続けるのは・・・苦しくて辛い。
わたしは、あの人に母親らしいことをしてもらった覚えが無い。赤ん坊の頃は知らないが、物心付いてからは抱き締められたという記憶すら無い。それなのに、『母親の味方をするのは当然』だとは・・・
「一応、あの人を外出させないよう、縁談相手の親類が来ても話は無かったことにと追い返すよう言い付けて来ましたが」
「そうですか。では、ネイト。わたしは今し方、用事ができました。少し出掛けて来るので、おじい様へ連絡と、セディーへ手紙を頼みますよ。『迎えはこちらから出すので、子爵家の方には帰らないように』と」
にっこりと、けれど有無を言わさないような圧の強い笑顔。これぞ高位貴族夫人という笑顔ですね。さすがです。
「はい、おばあ様」
__________
おかん視点の話とか、読みたいという方いますかね?
どうでしょう?
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