虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 ・・・おばあ様に、そっくり?

 そう言えば、今まで意識しなかったけど……わたしの瞳の色が、この数年でいつの間にか薄茶色からペリドットの色に変わっていたことを思い出した。

 確かに、ペリドットの瞳はおばあ様と同じ色。

 そして・・・この人がわたしを嫌う理由が、先程から目を逸らし続けている理由が、これ・・か。

 自分がおばあ様を嫌っているから。その、『お義母おばあ様に似ている息子わたし』のことが嫌いだった、と。

 だから・・・、わたしを疎んでいた、と。

 まぁ、今更だ。それがどうした? という気分。

「一応言っておきますが、わたしはおばあ様ではありませんよ」

 出た声は、思ったよりも冷ややかに響いた。

「どうしてっ、なんでいつもそうなのっ!? どうしてネイトはわたくしを嫌うのっ!? なんでそんな酷いことができるのっ!? いつもいつもっ、お義母様と同じような顔でわたくしを責めてっ!? わたくしはネイトのお母様でしょっ!?!? なんでわたくしの味方をしないのっ……」

 怯えるような、強い鬱屈うっくつと怒りのこもるブラウンの瞳から零れ落ちる涙。甲高い声が喚き立てる。

 わたし自身は、ハッキリとこの人を責めた覚えはあまり無いのだが・・・

 なんというか、ちょっと……いや、もうかなりドン引きだ。

 ドン引きはしている。けれど――――

 驚く程に、この人の涙には心が動かされない。

 昔は……セディーのことでこの人が騒いで泣く度、胸が痛んだというのに。

 あぁ、わたしにはもう――――この人の涙は価値が無いのだ、と。そう、思った。

 ミモザさんの流した涙には、とても狼狽うろたえたというのに。
 乳母の、「大きく……なられましたね、ネイト様」という言葉と涙には、胸がジーンとしたのに。
 スピカには、泣いてほしくなくて……けれど、わたしのために涙を流してくれることを嬉しいと感じてしまうというのに。

 小さな頃には、この人に好かれたいと思っていた。好かれないことを疑問に思っていた。好かれないのは、自分が悪いのだとも思った。そして、この人のわたしへの冷たい態度、刺々しい言葉に、何度も悲しい思いをしたというのに・・・

 それなのに――――

 いつの間にかわたしは、そんな風に悲しいとは思わなくなってしまった。

 それは――――

 花畑に置き去りにされたときか、
 熱に浮かされて寝込んでいたときに掛けられた「反省なさい」という言葉にか、
 クロシェン家に宛てられた『家族にも懐かない上、甘やかすと付け上がるような子供』だと言われた手紙の内容にか、
 数年間音沙汰が無いうちにか、
 騎士学校に入れられたときにか――――

 いずれにしろ、今はただ、この人の泣き喚く姿を見ても……見苦しいと感じるだけ。

 それなのに、「なんで味方をしないの?」とか言われても・・・
 幼少期から自分のことを嫌い続けていて、あからさまにずっと疎まれていることを自覚しているというのに。
 息子なのだから母親である自分を慕え、とは。それを当然のことだと考えているとは。本当に……どこまでもおめでたい。

 つくづく思った。この人に……長年張り付かれていたセディーは、本当に大変だっただろうなぁ。
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