46 / 673
45
しおりを挟む・・・おばあ様に、そっくり?
そう言えば、今まで意識しなかったけど……わたしの瞳の色が、この数年でいつの間にか薄茶色からペリドットの色に変わっていたことを思い出した。
確かに、ペリドットの瞳はおばあ様と同じ色。
そして・・・この人がわたしを嫌う理由が、先程から目を逸らし続けている理由が、これか。
自分がおばあ様を嫌っているから。その、『お義母様に似ている息子』のことが嫌いだった、と。
だから、わたしを疎んでいた、と。
まぁ、今更だ。それがどうした? という気分。
「一応言っておきますが、わたしはおばあ様ではありませんよ」
出た声は、思ったよりも冷ややかに響いた。
「どうしてっ、なんでいつもそうなのっ!? どうしてネイトはわたくしを嫌うのっ!? なんでそんな酷いことができるのっ!? いつもいつもっ、お義母様と同じような顔でわたくしを責めてっ!? わたくしはネイトのお母様でしょっ!?!? なんでわたくしの味方をしないのっ……」
怯えるような、強い鬱屈と怒りの籠るブラウンの瞳から零れ落ちる涙。甲高い声が喚き立てる。
わたし自身は、ハッキリとこの人を責めた覚えはあまり無いのだが・・・
なんというか、ちょっと……いや、もうかなりドン引きだ。
ドン引きはしている。けれど――――
驚く程に、この人の涙には心が動かされない。
昔は……セディーのことでこの人が騒いで泣く度、胸が痛んだというのに。
あぁ、わたしにはもう――――この人の涙は価値が無いのだ、と。そう、思った。
ミモザさんの流した涙には、とても狼狽えたというのに。
乳母の、「大きく……なられましたね、ネイト様」という言葉と涙には、胸がジーンとしたのに。
スピカには、泣いてほしくなくて……けれど、わたしのために涙を流してくれることを嬉しいと感じてしまうというのに。
小さな頃には、この人に好かれたいと思っていた。好かれないことを疑問に思っていた。好かれないのは、自分が悪いのだとも思った。そして、この人のわたしへの冷たい態度、刺々しい言葉に、何度も悲しい思いをしたというのに・・・
それなのに――――
いつの間にかわたしは、そんな風に悲しいとは思わなくなってしまった。
それは――――
花畑に置き去りにされたときか、
熱に浮かされて寝込んでいたときに掛けられた「反省なさい」という言葉にか、
クロシェン家に宛てられた『家族にも懐かない上、甘やかすと付け上がるような子供』だと言われた手紙の内容にか、
数年間音沙汰が無いうちにか、
騎士学校に入れられたときにか――――
いずれにしろ、今はただ、この人の泣き喚く姿を見ても……見苦しいと感じるだけ。
それなのに、「なんで味方をしないの?」とか言われても・・・
幼少期から自分のことを嫌い続けていて、あからさまにずっと疎まれていることを自覚しているというのに。
息子なのだから母親である自分を慕え、とは。それを当然のことだと考えているとは。本当に……どこまでもおめでたい。
つくづく思った。この人に……長年張り付かれていたセディーは、本当に大変だっただろうなぁ。
22
お気に入りに追加
745
あなたにおすすめの小説

これは一周目です。二周目はありません。
基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。
もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。
そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

醜いと蔑んだ相手は隣国の美姫
音爽(ネソウ)
恋愛
爛れた皮膚の治癒を試みる王女は身分を隠して隣国へ渡り遊学していた。
そんな事情を知らない子爵家の子息は「醜い」と言って蔑む。しかし、心優しいその弟は……
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語
サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。
この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!?
プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。
貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる