虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「お見合いは明日よ。服は用意してあげたから、あなたも準備しなさい」

 この人は一体、なにを言っているのだろうか?

「・・・わたしには、既に婚約者がいるのですが?」

 すぅっと、頭の芯が冷えて行くのがわかる。不快げにしかめられた顔を見やる。

「まだそんなことを言っているの? 単なる子供の我儘わがままでしょう? クロシェン家にはもう十分なお礼をした筈です。あなたはもう年頃なんだから、いつまでもあちらの子のおままごとに付き合う必要はないでしょう? いい加減になさい」

「・・・あなたの方こそ、いい加減にしてください」

 低く、尖った声が出た。

「なっ、なにを言うのネイトっ!?」

 叱り付けるような鋭い声。

お見合いそれは、お祖父様も承知していることなんですか? けれどおかしいですね、昨日わたしはお祖父様からそんな話は、一言も聞いていないのですが? 一体どういうことなのでしょうか?」

 キッ、とわたしを強く睨み付けたブラウンが、また直ぐに逸らされる。

「なんでお義父様が出て来るの?」

 この発言で、この人の独断……いや、父も一枚噛んでいたりするのかもしれないが……確実に、祖父母の了承を得ていないことが判る。

「わたしとスピカ・クロシェン嬢との婚約は、ハウウェル侯爵家当主であるお祖父様と、隣国のクロシェン伯爵家当主であるトルナード様が了承したことです。あなたの独断で破談にすることなどできませんよ。そもそも、あなたには、セディック兄上を含めて、わたし達の縁談を決める権限など最初からありはしません。勝手な真似はしないで頂きたい」
「なっ、なにを言ってるのっ!? わたくしはセディーとあなたの母親ですよっ!?」

 本当に、この人は貴族夫人なのだろうか?

「権限が無い筈は」
「あなたは単なるハウウェルの子爵夫人・・・・でしかないでしょう。父もハウウェル子爵・・だ」

 ぴしゃりと、言い募ろうとした言葉を遮る。

「ハウウェル侯爵家・・・当主・・であるお祖父様より偉いとでも? そして、スピカ・クロシェン嬢はわたしの婚約者だと、何年も前からずっと言っていた筈ですが? あなたは一体、今までなにを聞いていたのですか?」

 まぁ、この人が貴族夫人としての務めを、随分前から放棄していることは、既にわかり切っているが。

「それ、は・・・あなたはわたくしの姪に、そしてあなたを思って縁談を組んであげたわたくしにも、恥を掻かせるというのですか? 明日にはもう、姪がこちらへ来るのよ? わたくしにどうしろと言うのっ?」

 そんなこと知るか。

「・・・恥もなにも、勝手に話を持って来たのはあなたでしょうに。今直ぐ断ってください。頼んでもいないことをされて迷惑です。それと、この件はお祖父様とおばあ様に報告するので。悪しからず」

 怒りを抑えながら返すと、

「っ! なん、でっ……そんな酷いことを言うのっ? あなたはわたくしの子でしょうっ!? それなのにっ、少し見ないうちに増々ネヴィラお義母様にそっくりになってっ!? そのお義母様にそっくりな瞳でわたくしを責めるのねっ!?」

 ヒステリックな声が響いた。

 ・・・おばあ様に、そっくり?
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