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しおりを挟む兄上と祖父母と、乳母の給仕でお茶をしながら、向こうで……クロシェン家でどう過ごしたかを話した。みんな、笑顔でわたしの話を聞いてくれた。
「手紙でも思っていたけど、ネイトは本当にスピカちゃんを可愛がっているのねぇ」
目を細めておばあ様が言う。スピカの話題が多かったからかもしれない。でも、
「はい。スピカはすっごく可愛いですから!」
本当のことだからとわたしが頷くと、
「ふふっ、そう。よかったわ」
「はい。ネイトが楽しそうでよかったです」
「クロシェンの家には、よくよく礼をせねばな」
みんなが微笑ましいという顔でわたしを見た。
・・・なんか、これは少し恥ずかしいかも。と、思いつつ、お茶会は続いた。
そうやって暫く経っても、結局母が祖父母へ挨拶をしに現れることはなかった。
母は祖父母と乳母が帰った頃に現れて、
「あら、もう帰ってしまったの? 折角ご挨拶をしようと思ったのに。残念だわ」
と白々しく言っていた。
どうやら母は、本当に祖父母が苦手らしい。
まぁ、祖父母も母が出て来なかったことには一切触れなかったから、なんというか……諦められているのかもしれないけど。
夕食はセディーと二人で食べた。母はわたし達とは別で食べるらしい。
父は遅くに帰るらしく、この日は顔を合わせることはなかった。
二人で囲むテーブルは、少し広く感じた。
ロイもスピカもよく話す方で、わたしとミモザさん、トルナードさんは聞き役になっていることが多かったし。賑やかだった。
兄上と二人だけの……
小さい子のいない、
食べ物を零したり、
大きな声を聞くことのない、
お皿をひっくり返したり飲み物を零したりもしない、
叱る声のしない、
騒がしくない、
笑い声の響くことのない、
穏やかな食事風景。
「ごめんね、ネイト」
ぽつんと、眉を下げた兄上が謝る。
「? なにが? セディー?」
「父上も、母上もいなくて。折角、ネイトが帰って来たっていうのに……」
「? さっき、お祖父様とおばあ様、それに乳母が来てくれたよ?」
両親が食事時にいないのは、実家ではいつものことだし。それについては、どうとも思わない。
わたしを気に掛けてくれる人達の顔は、もう見た。
「・・・そう、だね」
「それに、セディーがいてくれるから嬉しいよ」
以前は兄上が寝込みがちで、あまりご飯を一緒に食べる機会が少なかった。
「っ、そっか。ありがと、ネイト」
「? うん」
こうして、帰還した日は暮れて行った。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰
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