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「……ネイトは……」

 パチパチと、驚いたように瞬くブラウンの瞳。

「はい?」
「ネイトは、強くなったね」
「?」

 意味がわからなくて首を傾げると、

「前は、悲しそうな顔をしてたから」

 わたしを見詰めた兄上は、柔らかい、けれど少しだけ寂しそうな顔で微笑んだ。

「そう、かもしれませんね」

 前は、『なんでわたしはお母様に好かれないんだろう?』とずっと疑問に思っていて……母の冷たい態度を、責めるような言葉を掛けられる度、悲しい思いをしたものだ。

 けれど、今は――――不思議と、そんなに悲しいとは思っていない。

 むしろ、困った人だなくらいにしか思えない。

 もしかしたらわたしは、母が言ったように、薄情になってしまったのかもしれない。

 母に好かれないことに対して、『わたしが悪い子だからお母様に好かれないんだ』という焦るような罪悪感も、胸の痛みも、抱かない。

 だって、わたしのことを好きだって、大好きだって言って、態度で示してくれる人達がいる。
 だからわたしは、この人一人に好かれないくらい、なんでもない。
 そして、母親なのだというなら、この人なんかよりも……乳母やおばあ様、ミモザさん達の方がよっぽど母親・・らしく・・・わたしに接してくれる。

 それに、今のはわたし。悪くないよね? 多分。

 まぁ、それはそれとして。

 母とは……適度に距離を取って、お互いに不快な思いをしなければ、それでいいとすら思っている。
 これから一緒に暮らすのだから、それは少し難しいのかもしれないけどね。

 やっぱりわたしは、随分と薄情になってしまったみたいだなぁ。

「僕も、もっと確りしなきゃね……」
「セディー?」
「うん、頑張るから」

 ぽんぽんと優しく頭が撫でられた。そして、

「??」

 にこりと、笑顔になった兄上がくるりと振り返る。

「そろそろ、お祖父様とおばあ様が来ると思いますけど、準備はできていますか? 母上」
「っ……そう、ね。準備をして来るわ」

 兄上の言葉に、母は鼻白んだようにそそくさと足を速めて家の中へ入って行った。

「これでしばらくは静かになる筈だよ。母上はね、お祖父様とおばあ様が苦手なんだ」

 溜め息と、少し疲れたような苦笑。

「お茶にしようか、ネイト」

__________


 セディーもお疲れです。
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